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COLUMN
2026.04.13

ピッチの熱狂を、確かな事業創出の種へ。「OPEN INNOVATION PROGRAM 2026」を起点に進む、スタートアップとの共創

2026年2月18日、日本橋室町三井タワーの一角にある「CAFE Crossing」は、異様な熱気に包まれました。三井不動産ビルディング本部主催の「OPEN INNOVATION PROGRAM 2026(以下、OIP)」が開催されたためです。

今回のOIPは、単なるスタートアップの登壇イベントにとどまりません。デベロッパーという「街づくりの担い手」の視点を超え、外部の革新的なアイデアをオフィスづくりにインストールするための「共創の場」として設計されていました。

イベントから数週間が経ち、ピッチ当日の熱気は、具体的な事業創出の「種」へと姿を変えようとしています。そこで、イベントを終えた今だからこそ語れる、スタートアップとの協業に対する「本音」と現在進行形のリアルな挑戦について、三井不動産の担当者に聞きました。

「行きたいと思えるオフィス」を実現する。三井不動産がスタートアップと共創する理由

今回のOIPが掲げたテーマは、極めてシンプルかつ本質的な「行きたくなるオフィス」です。  このテーマのもと、デベロッパーとして長年オフィス供給を続けてきた三井不動産が、なぜ今、スタートアップとの共創を必要としているのでしょうか。

日比谷街づくり推進部 事業グループ 統括の花淵 克明は、その背景にある危機感を次のように語ります。

日比谷街づくり推進部 事業グループ 統括 花淵 克明

花淵「我々はデベロッパーの立場と専門的見地から日々商品企画をしていますが、どうしても作り手の立場、つまり供給者の目線に陥りがちです。空調が効いているか、セキュリティが万全かといったハード面の充実は前提ですが、それだけでは語れない『行きたくなる要素』がほかにもあるはずです。そこで様々な分野に取り組まれているスタートアップの方々から見た“行きたくなる”がどういったもので何を課題と捉えているのか、どんなソリューションを考えているのかを直接聞くことは、我々にとって大きな刺激になると考えました」

リモートワークが浸透し、オフィスの価値が問い直される今、三井不動産は自らの「成功体験」を一度脇に置き、外部の知見を貪欲に取り入れようとしています。

さらに今回のOIPの大きな特徴は、部署の垣根を超えた「横割りチーム」による主催である点です。通常、物件開発は個別の担当部署ごとに進められますが、今回はエリアや用途を問わず、ビルディング本部全体で応用できるアイデアを探索する形を取りました。

この体制について、ビルディング事業2部 事業グループ 主事の木村 庄佐はその意義をこう強調します。

ビルディング事業2部 事業グループ 主事 木村 庄佐

木村「自分が担当している物件でなくても、仕掛かり中の物件やこれから形にするビルなど、あらゆるフィールドに対して妄想を膨らませることができます。エリアや用途がバラバラな物件に対しても、横断的に活用できるアイデアを膨らませたのは、横割りチームだからこそ。個別のプロジェクトに縛られないため、今回はより広い視点でスタートアップの可能性に向き合うことができたと感じています」

そんな今回のピッチには、以下の6社が登壇し、独自の視点から三井不動産への共創案を提示しました。

企業名            提案内容の概要
株式会社古殿研究所パーソナライズドリンクサーバー「DRIGGER」を通じ、ワーカーが意識せずに健康になれる「がんばらなくていい健康」を提案。
株式会社DATAFLUCTデータの力で、快適性とビルの資産価値向上を目指すため、空間 ID とマルチ AI エージェントを活用した次世代ビル OS を提案。
scheme verge株式会社ビル&エリアの体験運営を実現するまちづくりOS「Horai」を基盤に、街のコンテンツをビル内に取り込み、人流等データ活用しながら交流を生む共用部「ソーシャルラウンジ」構築を提案。
株式会社GATARIオフィスにおけるスマホを通じた没入型の音声体験を創出。
ボールウェーブ株式会社超小型センサーによりビル内の空気の質を24時間監視。ウイルス検知も見据えた安全・安心な空間運用を提案。
フォレストデジタル株式会社没入型空間サービス「uralaa」により、自然映像やライブ中継を多面体で配信。熱狂とリラックスを共有する場を提案。
スタートアップのピッチ風景

OIPの真価は”ピッチ後”にある。イベントを終えた今進む、スタートアップとの共創

「ピッチはあくまで一つのきっかけに過ぎません」と二人は口を揃えます。

OIPの真価は、ステージ上でのピッチよりも、その後の懇親会やイベント後の「リアルな対話」にありました。

木村「懇親会で、例えばオフィスへ訪問するとき、迷わず辿り着けるように『設計図面の段階からつまずきポイントを特定し、人流を分析できないか』という議論に発展しました。その場で『おもしろい、一度やってみましょう』と話が進んだんです」

しかし、こうしたアイデアがすぐに、これから完成する大型ビルへ採用されるわけではありません。そこで、スタートアップと大企業の間にある「時間軸のギャップ」を埋めることを前提に、イベント後すでに具体的な検討が始まっています。

花淵「デベロッパーの仕事は、数年、十数年単位。一方でスタートアップの皆さんのスピード感はもっと速い。そのギャップを無視して『いつか建つビルに導入しましょう』では、彼らの成長を止めてしまいます。だからこそ、今回のイベントをきっかけに、今すぐに動ける『ビルディング本部の自社フロア内でのトライアル』から始めるケースが具体的に動いています」

いきなり本格導入を目指すのではなく、まずは三井不動産の社員自らがユーザーとなり、安全性や品質を確認しながらスモールチャレンジを積み重ねていく。このように、数年先の未来に向けて着実にステップを踏む姿こそが、協業のリアルです。

イベント後の懇親会の様子

協業の「入り口」を突破するためには? 三井不動産が求めるパートナーの条件

視点を変え、三井不動産との共創に対し、スタートアップ側はどう向き合うべきなのか。取材の最後に2人は、これから出会うパートナーへの期待を次のように語ります。

花淵「『うちにはこんなすごい技術があります』というお話は、たくさんいただきます。ただ、私たちが知りたいのはその先です。例えば、三井不動産が持つオフィスビルの共用部や、三井不動産が手がけるこのまちにその技術を取り込んだらどうなるのか。テナントさんやワーカーさん、来街者にどういった価値が提供できるのか。そこまで一歩踏み込んで、私たちのフィールドにどうインストールするのかを具体的にブレイクダウンして提案してくださると、我々の中での『協業の解像度』がぐっと上がります。もちろん出資も重要ですが、それ以上に、三井不動産が持つ圧倒的な『場』というアセットを使い倒し、一緒に実績をつくりたいという熱量のある企業さんと出会いたいです」

この意見に、木村も深く共感し、続けて語ります。

木村「三井不動産は「場」は数多く持っていますが、その可能性を引き出す「コンテンツ」は、まだまだ磨ける余地があると感じています。オフィスはもちろん、商業、ホテル、物流、ドームまで、多種多様なリアルな場があります。その場を十二分に生かしてくださるパートナー企業の皆さまとご一緒できると、非常に心強いです。例えば今、社内では『木の活用』や、『エンターテインメント』『アート』をどうオフィスに結びつけるかというテーマがあります。それは単に木を置けばいい、絵を飾ればいいということではありません。既存の空間をどう変質させるか。そういった、我々だけでは発想できない『新しい切り口』を常に求めています」

さらに今回、話を聞く中で木村がもらした次のエピソードには、三井不動産が掲げるオープンイノベーションの真髄が凝縮されていました。

木村「ピッチ後の懇親会で、ある社長さんが『もっと内容を練り直してくればよかった』と悔しそうに漏らしたんです。でも、私たちは『これで終わりじゃない、ここから一緒に考えましょう』とお伝えしました」

求められているのは、非の打ち所がない「完成品」ではありません。互いの不足を補い合い、活用のアイデアを一緒に考えながら、リスクを恐れず一歩を踏み出せるかどうか。三井不動産は、そんな泥臭くも熱い挑戦を共にするパートナーを、今この瞬間も待っています。