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採択率1%未満の精鋭12社はいかに飛躍したか?Techstars Tokyo Demo Day 2025を完全レポート
2025年11月11日、世界中から投資家やスタートアップのエコシステムを支える人々が集まり、「Techstars Tokyo Demo Day 2025」が開催されました。国内外77名のメンターとともに3カ月間という濃密なプログラムを経た12社のスタートアップが、最終的に国内外の投資家など400名以上を招待してピッチを行う日です。
この記事では、その熱狂の一日を記録するとともに、世界へ羽ばたこうとするスタートアップの声を紹介。さらに、スタートアップの変化を間近で見ていたTechstars Tokyo マネージングディレクターの白戸勇輝氏に、プログラムを振り返ってもらいました。
※Techstars Tokyo 2025 スタート時の記事はコチラから
3カ月間の集大成を世界に問う日。驚くほど成長を遂げた12社のプレゼン
オープニングで白戸氏は「このDemo Dayは、単なるピッチイベントではありません。わずか3カ月間で世界で戦うための設計図を手に入れ、驚くほど成長を遂げた12社の挑戦者たちが、その集大成を世界に問う日です」と会場の熱気を高め、Techstars TOKYOがスタート。
その後、Techstars CEOのデイビッド・コーへン氏が「東京は今、世界のトップ10に入るほど、スタートアップのハブになっています」と紹介。東京は、かつてないほどの勢いでイノベーションの中心地へと変貌を遂げている、と語りました。
事実、今回のTechstars Tokyoは、120カ国以上の国と地域から応募が殺到し、採択率は1%未満という驚異的な厳しさに。日本を含むアメリカ、インド、スペインなど多様な国籍から成る12社が、ここ東京に集い、3カ月間を共に過ごしました。

さらにパネルディスカッションでは、日本のスタートアップが世界で成功するための本質について議論。例えば「グローバルな企業になるためには、世界を代表する企業に心の底からなりたいと思うレベルの野心が必要です」と強調したほか、ネットワークの力も重要だという前提で「ビジネスの成功は、誰とつながるかにかかっています」といった意見が語られました。
また、「特にハードウェアやロボティクスといった『フィジカルAI』の領域は、日本が世界をリードできる大きなチャンスを秘めています」など、日本の優位性についてのトークも印象的でした。
そして、12社それぞれがピッチを実施し、単なる事業計画ではなく、3カ月間で鍛え上げられた具体的な成果物を、情熱的にプレゼンテーション。ここでは12社のピッチで話された内容を、簡単に紹介します。
1社目:SoranoAI
「私たちは、AI気象学者エージェントを活用し、エネルギー、農業、ロジスティクスといった天候に大きく依存する業界に、ビジネスインテリジェンスを提供します。これにより、天候による機会損失のない世界の実現を目指していきます」
2社目:O-ID
「モジュール型ヒューマノイドロボットを開発している私たちですが、産業用ロボットもまるでレゴのように分解したり、組み立て直したりできる世界を目指しています。パーツを交換するだけで、農業や製造業など多様なニーズに応えながら、深刻な労働力不足の解消に貢献します」
3社目: DLeader
「DLeaderでは、製薬・創薬チームを支援するAIコパイロットを開発しています。開発期間・費用の膨大さや成功確率などの創薬リスクを半減させることで、生産性を10倍に向上させることを目指しています」
4社目:Overwatch
「私たちは、航空分野の最前線で働くスタッフの皆様をサポートするAIシステムを構築しています。運航情報を一元化し、航空会社の運航中断を解決することで、年間数十億ドルものコスト削減を目指します」
5社目:Plexis AI
「病院システムと連携するエージェント型AIシステムを開発し、医療従事者の皆様のバーンアウト解消に貢献したいと考えています。AIエージェントが病院間のデータ連携を改善し、臨床・事務作業を自動化することで、医療現場の負担を大幅に軽減していきます」
6社目:Boxtree
「MR技術を活用した卓上ゲーム体験を構築し、地理的な境界を超えてプレイヤーの皆様を結びつけます。新しい遊びの未来を、一緒に創造していきたいと思っています」
7社目:Blueconomy AI
「私たちは、港湾業界のためにAI管制室を構築しています。データ処理とAI強化学習エンジンを活用することで、物流・サプライチェーンにおける大規模オペレーションの効率を劇的に改善し、世界の『流れ』をよりスムーズにすることを目指します」
8社目:Trissino
「私たちがお届けするのは、BtoB企業の皆様の競合情報をリアルタイムで提供するサービスです。それを営業支援ツールと統合することで、皆様のデジタルマーケティングを、もっと簡単に、もっと強力なものにするお手伝いをします」
9社目:Tokoshie
「AIを活用した3Dプリンティングプラットフォームを提供しています。AIの3Dデザイナーや自律型3Dプリンターを通じ、製造業の皆様が専門知識なしに、アイデアを部品へと、より早く、より安く変換できる世界を目指します」
10社目:Contera AI
「中小企業の皆様に向け、AIマーケティング部門を提供しています。Google広告などでの効果的なAI駆動型マーケティングを通じ、皆様が眠っている間にもセールスを達成できるよう、私たちが全力でサポートします」
11社目:Cascade
「AIがデータ分析と運用を自動化する、インハウスのデジタルマーケターの皆様に向けたプラットフォームです。これにより、マーケターの皆様は戦略立案に集中することができ、結果として広告コストの削減とパフォーマンスの向上が実現します」
12社目:OneInBox
「不動産業界に特化したボイスAIを開発しています。AIが見込み顧客に即座に架電し、人間よりも高い精度でアポイントメントを獲得することで、不動産営業に変革をもたらします」

「世界で通用するノウハウが学べた」「世界を見据えた大きな目標が持てた」挑戦者の声
ここからはプログラムに参加した4社のスタートアップの声をご紹介します。
【Trissino】世界でも通用するセールス戦略を学ぶことができた
Trissino CEOの森永 貴大氏がこれまで最も苦労していたのは、アメリカ市場でいかに自社のプロダクトを売るかという点でした。しかし、今回のプログラム参加をきっかけに、アメリカの企業に自社プロダクトを販売することができたと話します。
「アメリカ市場でのBtoBセールスは、正直なところ、かなり苦戦していました。でもアドバイザーの方々から、セールスプロセスや最初のコンタクト方法について『誰に、いつ、どんなふうに連絡を取るのがベストか』といった具体的な戦略指導を、週に何度も丁寧に教えてもらえたんです。その教えを素直に実践してみたところ、プログラム期間中に、なんとアメリカのユニコーン企業に自社プロダクトを販売することができました。この『世界でも通用するセールス戦略』を学べたことは、私たちにとって一番大きく、本当に実のある収穫だったと思います」

【Tokoshie】もっと世界を見据えた、大きな目標を持てるようになった
Tokoshie CEOの渡辺 龍徳氏は、通常では難しかった「グローバルに活躍されている起業家たちと直接会い、アドバイスをもらえる経験」が最も貴重だったと強調します。
「プログラムに参加して、会社の土台となるミッション・ビジョン・バリューを改めてしっかりさせることができました。前はちょっと視野が狭かったのですが、プログラムのおかげでもっと世界を見据えた、大きな目標を持てるようになったと感じます。この視野の広がりは、プロダクト作りやブランディング、そして『誰に、何を届けたいか』というターゲットの明確化にそのままつながっています。『大きく考えよう(Think Global)』という、自分たちだけでは難しかった考え方を、このプログラムが身につけさせてくれたんです。メンターさんとのつながりを活かし、海外の見込み客の方にアプローチしたり、資金調達につながる方々とのネットワークを築いたりと、スケールの大きなコミュニケーションが実現できました」

【Cascade】「日本で基盤を築いてからでも海外展開は遅くない」という確信を得られた
過去に起業してイグジットした経験を持つCascade CEOの宮内 和貴氏は、そのとき海外展開に苦戦したと話します。そこで、Techstarsのコミュニティとノウハウを活用し、グローバル市場の攻略を目指してプログラムに参加しました。
「たくさんのメンターとほぼ毎日顔を合わせる機会は、『いい意味で、非常にハードだった』というのが率直な感想です。一方で、以前から抱いていた『最初から海外展開しないと成功しない』という考えは、メンターの方々から『焦る必要はない』という助言をいただき、冷静に今後を検討する機会になりました。特にプログラムの最大の収穫は、サービスの特性上、日本でしっかりと基盤を築いてからでも海外展開は可能であるという確信を得られた点です。プログラム自体は良い意味でのプレッシャーでしたが、プロダクトの方向性を定め、開発を大きく前進させ、グローバルマインドセットを習得するための貴重な機会となりました」

【SoranoAI】クライアントに響く、本質的なメッセージングを学ぶことができた
スタンフォード大学での学びを、日本のスタートアップエコシステムに還元したいという思いで参加した、SoranoAI CEOの河野 絢子氏。彼女にとって最も困難だったのは、日本の大企業に対するゼロからの営業活動でした。
「日本での事業展開にあたって最初は本当に手探りの状態で、例えば以前は、技術やプロダクトの機能に一生懸命フォーカスしてメッセージを出していたんです。でもメンターから『それ、クライアントの目指す成果(KPI)には響かないんじゃない?』と、ハッとさせられるアドバイスをもらいました。この言葉をきっかけに、お客様のメリットに直結する、もっと心に響くような表現に変えてみたんです。そのおかげでプログラムの後半、たった1カ月という短い期間で、大手エネルギー企業様を含む6社もの企業様とMOU(基本合意書)を締結するという、私たちにとって大きな成果を出すことができました。さらにTechstarsは、起業家同士のつながりが本当に強く、お互いを応援し合い、惜しみなく助言をくれる、まるで家族のような温かいコミュニティなんです。この環境があったからこそ、私たちはこんなにも短期間で成長できたのだと心から感じています」

プログラム期間で売上6倍の例も。この滑走路から世界という大空へ
白戸氏は、3カ月間のプログラムを終えた起業家たちの成長を目の当たりにし、確かな手応えを感じたと語ります。
「私たちは彼らに『世界で戦うための設計図』を渡しましたが、起業家たちはそれを実に見事に使いこなし、そして私たち自身の予想を超えるスピードで成果を出してくれました。上記でインタビューしていただいた4社以外でも、例えば海外から参加した『OneInbox』は、メンターからの戦略的なアドバイスをただちに実行に移し、わずか3カ月という短期間で売上を6倍にも増加させました。また、O-IDおよびOverwatchはすでに世界的に有名なベンチャーキャピタルから投資オファーを受けています。これは、Techstars Tokyoの集中的なメンタリングと、起業家自身の実行力が完璧に融合した結果です」

今回、出資パートナーとして支援した三井不動産の太田聖も、そのダイナミズムを目の当たりにし、世界最大のプログラムの組織力を実感したと言います。
「わずか3カ月という短期間で、スタートアップのビジネスモデルが劇的に洗練されていくダイナミックさを目の当たりにし、強い感銘を受けました。この成長の要因として、総勢77名にも及ぶ多様な経験を持つメンター陣の存在があり、改めてTechstarsの組織力の強さを実感しましたね」
また、白戸氏は今回参加したスタートアップの質の高さを、改めて強調します。
「今回、1%という限られた採択率のなかで選ばれた12社はとても質が高く、その内のなんと6社が、すでにメンターの方々からエンジェル投資を受けているのです。Techstarsのメンターは、皆さん、連続起業家や業界で大成功を収めた方ばかり。その方々が、毎週のように成長を間近で見てきたチームに、ご自身の資金でリスクを取って投資をする。この事実は、採択された企業がいかに大きな可能性を秘めているかを、何よりも雄弁に物語っています」
このように今回も、スタートアップの成長を後押しし、成果へと結びつけたTechstars Tokyo。太田は、三井不動産の長期ビジョン「& INNOVATION 2030」と紐付けながら、今後の展望を次のように語ります。
「私たち三井不動産のイノベーション推進本部では、不動産の枠を超え、新しい事業分野を切り拓くことを目指しています。そのためには、世界中のビジネスに触れ、情報を集めていくことも不可欠だと考えています。グローバルな視点を持ったスタートアップが集まるTechstarsは、私たちにとって『未来のビジネスが生まれる場所』。まさに、新しいビジネスチャンスを探るための大切な『アンテナ』として機能しています。これからも、Techstars Tokyoへの支援を通じてできたつながりを活かし、新しい価値を創造するためにオープンイノベーションの取り組みを続けていきます」

白戸氏も最後に、来年、応募を検討している国内の起業家へ向け、次のメッセージを伝えます。
「Techstars Tokyoは3年間のコミットメントで始まり、来年がその集大成の年となります。これまでの2年間で得た学びを活かし、私たちはさらに多くの、特に日本人起業家が世界へ挑戦するためのきっかけを作っていきます。英語の壁も心配いりません、なんとかなります。大切なのは、とにかく外に出ていきたいという熱意、そして世界を変えるアイデアです。私たちと一緒に、世界への扉を開けましょう」
熱狂と興奮に満ちたTechstars Tokyo Demo Day 2025が示したものは、東京がグローバルなスタートアップのハブへと進化している確かな証拠。野心的な起業家にとって、ここが世界へと飛び立つための最高の滑走路となるはずです。世界という大空へ飛び立つチャンスを掴み取りたい熱意を持った起業家と、次回のTechstars Tokyoで会えることを楽しみにしています。



