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AEAをきっかけに柏の葉で試験運用、さらには投資へ
三井不動産のフィールドを活用し、成長を支援
ヒラソル・エナジーは、IoT・AI の革新的な技術で太陽光発電の効率的な運用を推進する、東京大学発のスタートアップだ。三井不動産が共催に入るアジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)において、2018年に3位入賞、柏の葉賞を受賞したことをきっかけに、柏の葉ゲートスクエア・ららぽーと柏の葉における試験運用を実施(参考リリース)し、さらには三井不動産からの投資を受けた。
スタートアップが成長するプロセスに対して、三井不動産は部門横断で、オフィス・商業施設などのファシリティを活かしながら多面的に関わることができる。三井不動産株式会社 柏の葉街づくり推進部で試験運用を進めた岩﨑 航平氏、三井不動産株式会社 31VENTURESで投資を推進した江尻 修平氏、そしてヒラソル・エナジー株式会社 代表取締役の李旻(リ ミン)氏に話を聞いた。
<プロフィール>
李旻(リ ミン) ヒラソル・エナジー株式会社 代表取締役
東京大学産学協創推進本部の特任研究員を経て、2017年2月にヒラソル・エナジー株式会社を起業。「技術革新とDXで百年続く太陽光発電の実現を」を理念とし、太陽光発電設備をパネル単位で保守管理するAI/IoTプラットフォーム「PPLC-PV」を開発し、国内の低性能太陽光発電設備の検出・再生に手掛けている。
岩﨑 航平 三井不動産株式会社 柏の葉街づくり推進部
2018年に入社し、柏の葉街づくり推進部にて、柏の葉エリア内の各種施設の企画・開発を経験したのち、アカデミアやスタートアップとの連携をはじめとする「新産業創造」の取り組みを担当。
江尻 修平 ベンチャー共創事業部 31VENTURES プリンシパル
通信キャリアの自動運転関連事業子会社にて、試験運用のコンサル営業、BizDevなどを経験。 2020年に入社し、CVCファンド、LP出資、スタートアップとの協業、新規事業開発等を担当。得意領域はモビリティ。
事業成長の可能性を求め、AEAへ出場
最初の出会いは、三井不動産が共催に入るアジア・アントレプレナーシップ・アワード(AEA)だったそうですね。
李 はい。2018年ですね。当時は起業から1年ほど経ち、事業に迷っていた時期でした。弊社には当初から、東京大学の講師(現・准教授)の落合秀也先生が開発した技術はあったのですが、まだまだ実用化・事業化も含めて開発が必要でした。そこで、ちょうど東大の方から「AEAに出場して、評価やアドバイスを受けたらどうか」と声をかけてもらったことがきっかけでした。
そもそも私たちが扱っている太陽光発電は、私たちが起業する前にいったん大量建設のラッシュが終わっていました。日本国内では、太陽光の未来に対してポジティブに考えている方が少ない時期だったのです。2016年頃には「太陽光はもう終わってるでしょ」と言われることもありました。
江尻 2013〜2014年にFIT制度(固定価格買取制度:住宅用の太陽光発電などの再生可能エネルギーで作られた電力を、国が定めた価格で電力会社などが一定期間買い取る制度)が全盛期で、ちょうど建設ラッシュだったんですよね。
李 今でこそ、カーボンニュートラルや環境省のRE100など、再生可能エネルギーはやはり重要だとみなさんが再び捉えていますが、当時はそんな状況でした。そこで、単にソーラーパネルをものとして置いておくのではなく、将来はもっと賢くなっていくべきだと考え、少し植物的に動くイメージのものも作りたかったのです。社名の「ヒラソル」とは、スペイン語でひまわりを意味しているんですね。
今は既存のソーラーパネルの性能に対する問題意識を持って、その性能の適切な評価と管理、そして修繕の仕事に力を注いでいる状況です。
岩﨑 AEAは、アジアのスタートアップのみなさんに集まってもらい、ただ単に順位を決めて賞金をお渡しするだけのイベントではなく、私たちとしてはAEAを機に柏の葉の壮大なる実証フィールドを利活用いただき、社会実装に繋げて更なる成長への支援をしたい思いがあります。ヒラソルさんのプレゼンテーションには柏の葉での試験運用や実装を具体的にイメージできるプレゼンがあったんです。ららぽーとのソーラーパネルがもうプレゼン資料に挿入されていて、柏の葉で具体的に実証実験するイメージがもう完璧に出来上がっていました。そこで、柏の葉賞をお渡しして、ぜひ一緒にやっていきましょう、と。
AEAをきっかけに試験運用へ。ヒラソルと柏の葉部の連携
ららぽーと柏の葉での試験運用に至った経緯を教えてください。
岩﨑 柏の葉にはゲートスクエアという建物の屋上と、ららぽーと柏の葉の屋上にそれぞれソーラーパネルが1000枚単位で設置されており、通常の維持管理しかしておりませんでした。ヒラソルさんの技術を活用することでパネルごとの発電量がわかるので、私たち施設管理者側にとってどのような改善効果があるのかを明確にしていきました。
李 AEAでは、メンターの方がついてくださり、メンタリングを受ける機会がありました。私たちはビジネスよりも技術に寄っていた部分があったので、この大会に参加するうえで、ビジネス領域の課題を勉強させてもらいました。特に、私たちのような大学発のチームは、ソーシャルインパクトなど、言わば“きれいごと”を並べて自分自身もだましてしまいがちです。そうではなく、ビジネスの本質を忘れずにやっていくべきだというご助言も非常に印象的でした。
岩﨑 柏の葉賞をお渡しした翌年には共同研究契約を結び、ちょうど1年後のAEA2019のなかで、柏の葉ゲートスクエアの上で設置を進めていくことをアナウンスし、同時にプレスリリースを出しました。
私たちとしても、ヒラソルさんはひとつのモデル例です。実際に出場してくださったスタートアップのテクノロジーを柏の葉に実装するっていう意味では、今後のスタートアップのお手本であり、先導して走ってくださる連携の事例だと思っていますね。
「最初は完璧ではなくても新しい取り組みを一緒にやっていこう」
試験運用で難しさを感じた点はありましたか?
岩﨑 2020年のはじめ頃にはヒラソルさんのデバイスを設置するスケジュールで進めていましたが、実際には2021年3月から稼働となり、予定より時間がかかった経緯があります。
李 こちらの責任で、リコールをさせていただいたんです。別の運用で、当時作っていた製品に対するリスクを感知していて、お客様に対してご迷惑をかけてはいけないという判断でした。特にエネルギーのプロダクトは、1回の事故でも大きな問題になってしまうので、実際に製品化していくときには、研究開発の試験だけではなく、商業的な試験をするステップも非常に大事です。そこは「死の谷(開発ステージと商業化ステージとの間の障壁)」ですから。三井不動産さんは懐が深く、猶予をいただけたことは非常にありがたかったです。
岩﨑 リコールのご連絡を受けて、最初の印象としては、当然「大丈夫かな」と不安にも思いました。ただ、ヒラソルさんとしても当然持ち出しがあるにもかかわらず、すぐにリコールを決断された。「1回全て取り外して社内で検証したうえで、ちゃんとしたものをお持ちします」と早い段階で言っていただけたのは、信頼感がありました。また、それ以前から、ビジネスのお話だけに限らないコミュニケーションをとっていたので、「李さんってこういう人なんだな」と見えていたのも大きかったと思いますね。
さらに、柏の葉は国土交通省のスマートシティのモデル事業にも選定されています。その中でエネルギーは一つの大きなテーマなので、多少遅れてもやろうというモチベーションもありました。2021年3月に実際に稼働を迎えられたのは、本当に真摯にスピーディーに取り組んでいただいた結果だと思っています。
江尻 その辺りは、手前味噌にはなりますが、私たちがこれまでやってきたAEAや、ベンチャー共創事業を通じてスタートアップの方との関わり方を蓄積してきた部分もあると思っています。「最初は完璧ではなくても新しい取り組みを一緒にやっていこう」という気持ちがあるからこそ、リコールがあっても「そんな危ないものはだめだ」という話にはならなかったのだと思います。
李 そういった再チャレンジの機会をいただけたのは本当にありがたいことでした。
社内で連携し、スタートアップをサポート
柏の葉の試験運用から、ベンチャー共創部による投資へと、どのようにつながっていったのでしょうか?
李 柏の葉で試験運用ができるようになって、発電効率がよくないソーラーパネルが他の場所には大量に存在することに気づいていきました。先行事例でも成功していたので、リソースをさらに集めて、国内の太陽光発電所のなかで特に芳しくない発電所にフォーカスし、事業をすべきだと考えたのです。そこで、2020年末頃にシリーズAの資金調達をスタートしました。試験運用の案件が十分に終わっていないにかかわらず、あつかましく「資金調達をしているのですが、さらなるご支援をいただけないでしょうか」と岩﨑さんに相談させていただきました。
岩﨑 三井不動産としては、出資のチームはベンチャー共創事業部にあるので、私はおつなぎする役割でした。つなぐ過程で、李さんと何度か意見交換させていただき、「ベンチャー共創事業部に見せるなら資料に出資検討の際に必要となるこの情報をちゃんと書いた方がいいのではないか」「ビジネスモデルはこうアレンジしてはどうか」といったやりとりをしていましたね。
そういった過程を飛ばしてベンチャー共創事業部につなぐのは簡単かもしれません。しかし、ヒラソルさんはAEA発で先頭を走っていただく企業さんだと思っているので、私たちとしてもできる限りサポートした上で、資金調達も成功してほしいという思いがありました。
江尻 そんなやりとりがあったんですね(笑)。はじめて知りました。ありがたいです。日頃から、柏の葉部やほかの部門と、スタートアップのご紹介などでよくコミュニケーションは取っているので、岩﨑さんの方でも勘所を理解してもらえていたのかなと思います。
実は、私たちベンチャー共創事業部としては、ヒラソルさんがシード期だった2018年のAEAのときに、一度お会いしてお話は聞いていたんです。そこからしっかりと事業を確立されて、柏の葉での実証も進んでいることもあり、投資を決定しました。その際、AEA2018にも参加していた副社長の北原に、今回ヒラソルさんに投資する説明をしたら、「まだ出資してなかったのか」という反応でした(笑)
李 AEAの最終的な夜の打ち上げパーティで当時の北原副社長から、「単純に賞をもらうのではなくて、一緒にビジネスを作っていくようにしましょう」と声をかけていただいていたんです。
出資は決してゴールではない。横展開を目指して
今後の展望を教えてください。
江尻 私たちのファンドは、協業して事業を一緒に作っていくことにフォーカスしています。直近での期待としては、私たちがすでに持っている再生可能エネルギーの中の太陽光パネルがバリューアップできる部分をヒラソルさんと一緒にどんどん進めていくことですね。
もう一つは、先ほど岩﨑さんからもありましたが、スマートシティの観点も持ちながら、既存のもの、新設のものを含めてモニタリングして、それによって「どのような価値が得られるのか」「次にできることは何か」について、部門横断で連携しながら一緒に創っていきたいですね。
岩﨑 やはり出資は決してゴールではなく、ここで生まれた技術や事業を横展開させていくことが重要です。三井不動産のなかでの横展開や、他の企業への横展開に向けて、まずは柏の葉のフィールドでお手伝いできることは今後も継続的にさせていただきたいと思っています。
李 私たちとしては、今後もっと案件を積み重ねて開発が進められれば、太陽光発電設備で生み出せる電力を最適にコントロールしていけるようになります。今後、よりエネルギーの産業も変化・進化していくので、三井不動産さんにも貢献できるかたちでビジネスのパッケージを作っていきたいと考えています。
(2021年8月取材)