imgimg
imgimg

NEWS

CONTACT

img
お知らせ

COLUMN
2021.03.23

大人起業家の熱量を高め、伝播させる空間の仕掛け

2021年4月、「THE E.A.S.T.」のフラッグシップとなるワークスペース「startup workspace THE E.A.S.T. 日本橋富沢町」がオープンする。 築50年のビルをリノベーションしてつくられた7階建てのオフィスは、一般的なコワーキングスペースやシェアオフィスとは一線を画する。ターゲットである“大人起業家”を意識した設計やレイアウトが施されているという。 今回は三井不動産 ベンチャー共創事業部 31 VENTURES 塩畑氏と山下氏に加えて、「THE E.A.S.T. 日本橋富沢町」のコンセプトメイクから設計までプロジェクト全体を手がけたヒトカラメディア三浦氏、大越氏、今井氏に、同ワークスペースの設計に込めた思いについて話をうかがった。

塩畑 友悠  31VENTURESオフィスビル事業におけるテナントとの新規サービス開発、社内新規事業であるシェアオフィス「WORK STYLING」の立上げを経験。 現在は「E.A.S.T.構想」を掲げ日本橋を中心とした東京の東側におけるスタートアップエコシステムの構築を推進中。

山下 千恵 31VENTURESブランディングに特化したコンサルティング企業にて、toC向け新業態開発・新事業開発に7年間従事。2020年より31VENTURESに参画し、スタートアップ向けオフィス運営、コミュニティ創出、共創支援を担当。

三浦 圭太 デザインブランド「MINE」代表、株式会社ヒトカラメディア プロジェクトデザイナーオフィス、大使館、ホテル、個人邸などのデザインを手がける。(株)ヒトカラメディアではクリエイティブ部門、仲介不動産部門の責任者を歴任し、現在では事業立ち上げのパートナーとして事業計画や広報戦略・ブランディングなどプロジェクト全体のデザインに携わっている。

大越 菜央 ヒトカラメディア組織設計事務所での建築設計/ワークショップを経て、空間のデザイン設計に転身。人との繋がりやもっと密に会話を積み重ねながら設計をしていきたいと感じ、(株)ヒトカラメディアに入社。 ヒトカラメディアでは、お客様との人間関係を追求し、相手の思いを引き出しながら一緒に創りあげる空間をデザインしている。

今井 司 ヒトカラメディア プロジェクトマネージャー内装設計施工会社やオフィス関連総合商社にてコンストラクションマネジメント業務やプロジェクトマネジメント業務に携わる。 現在は個人で複数の事業を運営しながら、ヒトカラメディアで大規模案件を中心にプロジェクト進行を実施している。

ターゲットは熱量と冷静さを兼ね備えた
“大人起業家”

ヒトカラメディアと一緒にこのプロジェクトを進めることになった経緯を教えてください。

塩畑 ヒトカラメディアさんは、スタートアップのオフィス設計の実績もあり、スタートアップに精通している。また、三浦さんとは別プロジェクトで以前一緒に仕事もしていて、起業家向けのオフィスであればヒトカラメディアさんしかいないと思い、お声かけしました。

三浦 三井不動産さんとは、新規事業やワークスタイル事業、本社のデザインなどでご一緒させていただいておりました。今回、塩畑さんからE.A.S.T.構想をうかがって、とにかく面白いと思ったんです。

塩畑 デザインや設計は専門会社に依頼するのが一般的ですが、今回はそこも含めてヒトカラメディアさんにプロジェクトマネジメントをお願いしました。プロジェクトマネジャーである今井さんが、プロトスターさんを含めた3社の潤滑油のようにとりまとめてくれたのでありがたかったですね。

三井不動産とプロトスター、ヒトカラメディアでどのように議論をすすめていったのでしょうか。

塩畑 オープン約1年前の2020年3月から議論をスタートしました。すぐに最初の緊急事態宣言が発令されたため、オンラインミーティングで必死にブレストをはじめたのを覚えています。

三浦最も議論したのは、このオフィスを利用するターゲットをどうするかという点ですね。コンセプトや設計を決めていく上で最も核になる部分です。起業家、スタートアップ向けのオフィスということは決まっているものの、その中でもどんな人ををターゲットにするか。この属性を表現する言葉は何なのか、かなり議論しました。

塩畑 日本橋エリアは渋谷とは違って若者が少ない一方で、大企業が多いエリアです。そのため、大企業からスピンアウトした人や、事業経験を積んで30〜40代で起業する人、大企業と事業連携してイノベーションを起こしたいという人が少なくありません。そういったの方々を“大人起業家”としてターゲットとしました。 大人起業家は、事業経験を積んできたからこそ見えてきた社会課題を解決しようと起業する人。情熱もあるけど社会人としての冷静さも兼ね備えた、“冷静な熱意”を持っている人だと思うんです。熱量を保持しつつ、バランスを持てる場所を作りたいと考えました。

三浦 一般的なコワーキングオフィスだと、コミュニケーションとコラボレーションで終わることが多いですよね。ただ、大人起業家には議論を重ねて発散するだけでなく、自分の事業を見つめ直す内省する時間が必要だと考えたんです。若者のようにエネルギーだけで突っ走るのではなく、何のためにやるのかを振り返れる場所が欠かせないという話になりました。

三浦 圭太 デザインブランド「MINE」代表、株式会社ヒトカラメディア プロジェクトデザイナー

解脱から着想を得た、
発散と内省の繰り返すレイアウトへ

コミュニケーションや議論で“発散”する場と、自分の事業を見つめ直す“内省”する場は設計にどう反映したのでしょうか。

三浦 コミュニケーションを取る場所と、自分の事業に集中するフォーカスゾーンを切り分け、近接させることで、発散と内省を繰り返しながら事業をブラッシュアップしていく、まさに事業立ち上げのフェーズ特有の働き方をサポートできるようなレイアウトを意識しました。メンターや同志との壁打ちや相談ができるコワーキングエリアを1階に、のれん会議室と呼ばれるミーティングスペースを2階に配置し、2階の奥に集中して作業に打ち込めるフォーカスゾーンを用意しました。

山下 のれん会議室では発散するディスカッションをして、その流れでフォーカスゾーンに入ると急に吸音される。そういった素材をたくさん使ってるので自ずとスイッチが切り替わるんです。気持ちの切り替え効果が感じられる設計にしていただいたと思います。

三浦 お坊さんの解脱に至るプロセスを参考にしました。お坊さんが解脱している時に本堂でお経を上げてから、森へ向かうと音が聞こえなくなるそうなんです。そうすると自分の声が向こう側にスッと吸い込まれる感じになると。その感じを狙って作りました。

塩畑 1階のコワークスペースだけでも、2階のフォーカスゾーンだけでも意味がないと思います。こういったスペースやゾーンを連動させて活用することで、初めて効果を発揮するオフィスではないでしょうか。

特に設計でこだわった部分を教えてください。

大越 まずは、のれん会議室です。利用人数に応じてのれんをかけかえることで、2部屋つなげて使うこともできる会議室です。完全に区切る会議室もありますが、あえて議論して発散している様子を感じられる空間にしました。「THE E.A.S.T. 日本橋富沢町」は熱量の高い人に集まってほしい、そして集まった人たちの熱量を入居者同士で伝播させたいと思ったんです。ちなみに、のれんは日本橋の獅子や麒麟像をモチーフにしています。

山下 のれんのアイデアをいただいたときは感動しましたね。他の入居者が会議室で盛り上がっているのを見て自分たちも頑張ろうと思ってほしいし、話している気配を感じてふらっと議論に参加するといった交流も生まれてほしいと思ったんです。のれんを開けて「やってる?」って気軽に入り込んで話をしていったら、そこで何か新しいビジネスが生まれるかもしれないですよね。

大越 フォーカスゾーンもこだわりました。フォーカスゾーンは集中できるスペースにしようというのは決めたものの、大人起業家が集中する空間とはどういう空間なのかも議論しました。他の人の気配や熱量を感じつつ集中できるようにしたくて、完全に仕切るのではなくパネルで仕切ることにしたんです。パネルも落ち着く色が良いのか、吸音もできた方がいいのかなども吟味しながら選んでいきました。

のれん会議室完成イメージ

色味や素材などもターゲットである大人起業家を意識しているのでしょうか。

大越 大人起業家にとって、熱量が上がる色を考えています。カラーは全体的にモノトーンベースですが、全部モノトーンで揃えてしまうと熱量が集まってこないので、ところどころ刺激的なものが入っています。ポイントで木目を使ったのもそのひとつです。木目もいろんな種類を使うのではなく、同じ木目にして「皆が集まってディスカッションする場所」ということを意識させるようにしたり、ゾーンに合わせて木目を使う量を増減させました。

三浦 特にこだわったのは、フローリングですね。大人起業家はしっかりとした社会人だけど、心のうちは情熱であふれている。かたちはちゃんとしてるけど、うねった自然な荒々しさが残った木目を使うことにしました。見た目はちょっと面白いフローリングだなというくらいにしか思わないかもしれませんが、この木材にはスゴい熱量と思いがこもっています。 実は木材は、長野県飯山市の材木屋さんまで直接足を運んで選んでいます。飯山市は林業が栄えている街だったものの、近年衰退してきて後継者不足に悩んでいるそうで、このプロジェクトの話をしたところ喜んで協力してくださったんです。これから新しい起業家が育つ場所に、先人達が思いを託してくれたストーリーを込めた素材を使いたいと考えました。今回使用している木材は御神木なので、ぜひ足元からパワーを感じていただきたいですね。

1階には入居者以外の方も利用できるカフェもありますが、どういった意図で設計されているのでしょうか。

三浦 1階はカフェとコワーキングスペースがガラスで仕切られていますが、起業家の熱い熱量が伝わるように、空間は繋がっているように見せる工夫をしているんです。高低差をつけたり、微妙に素材を切り換えたりして、気持ちが切り替えられるような場の多様性を準備しています。実は照明も本当に分からない程度で、色や当て方を変えていますし、家具の色も同じトーンでちょっと変化させているんです。

どこでも仕事ができる中で、
これからのオフィスの使い方を追求

これまでのコワーキングオフィスやシェアオフィスとはちょっと違った使い方になりそうですね

山下 はい。コロナ禍で議論したこともあって、ニューノーマルな働き方や、これからのオフィスの使い方をおそらく他の誰よりも話し合ったと思います。自分たちも試行錯誤しながら働きましたからね。 これからのオフィスは、リモート中心になって週2〜3ぐらいの出勤が基本になるだろう。となると、オフィスにあえて集まる際は、雑談やディスカッションが中心になり、作業段階になったら、自宅に戻っておこなうというののも増えてくるかと思います。ただ同じ建物の中で作業に集中できるスペースがあれば、ミーティングが終わってからも、その熱を持続させたまま作業に移行することができるのではないかと考えたんです。

塩畑 今まではオフィス=執務スペースとなり、作業する場であり、会議もする場でもあり、雑談する場でもあった。これからは、オフィスもディスカッションする場と作業する場のメリハリがついてくるのではないかと思うのです。

山下 実際に緊急事態宣言の際に、スタートアップの方100人くらいに、今後オフィスはどうあるべきかについてアンケートをとりました。リモートワークへ移行する企業もありましたが、創業間もないスタートアップはチームワークが大事だからこそ集まる拠点が欲しいという声も少なくなかったのです。

塩畑 メンバーが集まる場所が必要という意見だけでなく、自分たちのアイデンティティーを表現するリアルな場がほしい意見も多かったんです。特にスタートアップですから「うちの会社はここから始まった」という証を求めているのかもしれません。コロナがあったからこそ、真剣にこういうリアルな場所の価値を探り求めることができましたね。 スタートアップ向けのオフィスは他にもたくさんありますけど、どう活用されるかを真剣に考えたのは僕らだという自負はあります。

CONCEPTやデザインをディスカッションした別オフィス

プロによるメンタリングや外部への発信機会も用意

「THE E.A.S.T. 」では、プロのビジネスアシストも受けられるんですよね。

塩畑 プロトスターさんや私たち31VENTURESのメンバーなど、起業家を支援するスタッフが常駐し、メンタリングを日常的に行えるようにします。

三浦 1階は、スタッフと入居者という分け方ではなく、同じ目線で対面で話し合える距離感を意識した座席の配置にしています。2〜3人で打ち合わせしているところにふらっと加わるようなイメージです。他の入居者同士で交流したり、思いを共有したりするような場にもなるように意識しました。

入居スタートアップが交流するために、どのような工夫をされていますか。

塩畑 どういう活動をしているかを他の入居者にも分かってもらうために、個室の多くに出窓を作りました。個室のオフィスはどうしても巣ごもりになりがちですが、むしろ見てもらうことで発信力が保てるのではないかと考えたんです。 1階のカフェでイベントもできます。31VENTURES主催で入居者同士の対談などを企画するだけでなく、入居者主催のイベントも開催可能です。 コロナが収束するまでは、リアルの場でのイベントは難しいです。だからこそ「THE E.A.S.T.」にはオンライン配信の機材も用意しています。入居するスタートアップの事業成長につながるイベントをぜひこのワークスペースから発信してもらいたいです。

大きな志を持つスタートアップに集まってほしい

「THE E.A.S.T.」の入居には厳格な審査基準を設けていますが、どういったスタートアップに入居してほしいと考えているのでしょうか。

塩畑「大人起業家」であることです。 審査で一番見ているのは、スタートアップの代表がどういう志を持って社会的なインパクトを与えたいのか、会社として成長させたいと思っているのかというところです。そういう熱を持った起業家に集まってもらいたいです。

三井不動産と協業可能性があるかどうかも審査のポイントになるのでしょうか。

塩畑 審査ポイントのひとつにはしていますが、それが絶対条件ではないです。幅広い業種・業態の方に門戸を開いています。日本橋エリアを活かしたテーマである必要もありません。とにかく社会課題を解決したいという好奇心が大事ですね。

「E.A.S.T.構想」の次の展望を教えてください。

塩畑 今は人形町などの日本橋の裏側エリアで展開していますが、起業家やスタートアップの熱を徐々に大企業が集結する日本橋の中心地に浸透させていきたいです。そうすれば、大企業の社員でも事業を起こす文化をつくれると思っています。 日本橋の裏側エリアから起業する人が増えれば、その熱が波及して、どんどん日本橋の中心地に寄っていき、大企業にいる人が起業したらまた日本橋の裏側エリアから始まる。そんなエコシステムを「startup workspace THE E.A.S.T. 日本橋富沢町」から作り上げていきたいです。

取材日 2021年03月