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COLUMN
2021.03.08

大人起業家によって変わる、東京イーストサイド

日本橋は江戸時代から続くビジネスの中心地。2021年春、その地に三井不動産が運営するスタートアップのためのワークスペース「startup workspace THE E.A.S.T.」が誕生する。

大人起業家にターゲットをしぼり、日本橋にスタートアップの集積地醸成を目指す「THE E.A.S.T.」ブランド。イノベーティブな空間の提供はもちろん、その真髄は大人起業家ならではのコミュニティづくりや、スタートアップとの共創を目指す三井不動産の支援体制にある。

スタートアップにとっての日本橋は、どのような可能性を持つ街なのだろうか?

入居事業者をアシストする三井不動産 ベンチャー共創事業部 31VENTURES 塩畑氏とプロトスター栗島氏が「startup workspace THE E.A.S.T.」が構想する新しい日本橋について、そしてサポート体制や、入居者とともにビジネスを共創する意気込みについて対談する。

・31VENTURES 塩畑 友悠 オフィスビルにおけるテナントとの新規サービス開発、社内新規事業であるシェアオフィス「ワークスタイリング」の立上げ等を経験。31VENTURESにおいてスタートアップとの協業による既存事業強化および新規事業開発に取り組みつつ「E.A.S.T.構想」を掲げ日本橋を中心としたスタートアップエコシステムの構築を推進中。

・プロトスター 栗島 祐介 教育領域特化型のシード投資を行う株式会社VilingベンチャーパートーナーズCEOを経て、プロトスター株式会社を設立。起業家コミュニティStarBurstを創設し、日本最大のスタートアップコミュニティにまで育成。現在は起業家・投資家の情報検索サービスStartupListの立ち上げ、運営も行う。

起業家育成のノウハウが詰まった新ブランド「THE E.A.S.T.」が生まれるまで

塩畑 三井不動産ではスタートアップとの事業連携を目指し、2015年からベンチャー共創事業部、通称31VENTURES(サンイチベンチャーズ)を立ち上げました。31VENTURESでは、これまでもスタートアップ向けオフィスの運営などを行ってきましたが、その過程でプロトスターさんと協力体制をとっていますよね。

栗島 2017年ぐらいからでしょうか。31VENTURESが運営するコワーキングスペースで「THE E.A.S.T.」の前身ともいえる、Clipニホンバシからのお付き合いですね。Clipニホンバシでは、スタートアップが生み出した技術やプロダクトを導入したい大企業や、協業したい事業者同士をつなげたオープンイノベーションの実現をめざしていました。そこで私たちは、メンバー同士のつなぎ役としてお手伝いしてきました。


塩畑 2018年にミッドタウン日比谷の BASE Qがオープンして、BASE Qに大企業の新規事業開発の支援機能が移管されました。そこからClipニホンバシでは、起業家に特化したコミュニティ作りを行なっています。そのあたりからプロトスターさんとはより深い連携を取って、起業家育成の部分を担ってもらっています。

栗島 Clipニホンバシで起業家支援をしていくなかで、第1優先事項は、起業家を認知してもらったり、他の企業との接点をつくったりというところ、第2優先事項が、起業前夜の社会人が集まってシナジー効果を得る場を作るというところとしています。場づくりの面では、既に2019年からSwing-Byという環境設計プロジェクトを走らせています。
私たちはそれらの今まで取り組んできたことを発展させ、より大きな規模で未来の起業家たちの場を盛り立てていきたいという想いがありました。そこで住む場所やオフィスなども誘致する起業家にフィットするまちづくりをご提案したのです。それがE.A.S.T. 構想という「THE E.A.S.T.」の原点となるコンセプトです。

ミッションは、日本橋を中心にイノベーションを生み出すエコシステムを作ること

塩畑 そもそも三井不動産は以前から日本橋中心にまちづくりに取り組んでいました。その一環として、起業家もこの地に集めたいという考えがあったのです。
日本橋は大企業が多く集まっている街ですが、大企業だけで活性化していくということではなくて、老舗の飲食店や、昔ながらの工芸品を扱うお店もあるなど多面的です。そういう街に、新しい風を吹き込むのが起業家・スタートアップなのではなかろうか−−−−当社にとってはこういう文脈でE.A.S.T. 構想が発進しました。

実は三井不動産自体も魅力的なスタートアップとの出合いを熱望しています。我々も常に成長しなければならず、協業して新規事業を生み出したり、既存事業を強化したりといったことを一緒にできる、パートナーが必要なのです。そういったパートナーと共に成長したいという思いもあります。

栗島 なぜ日本橋かというところですが、実はスタートアップの集まる渋谷のビットバレーと比較しても、この場所ならではのアドバンテージがあるのです。

ひとつはレガシー企業の数がこのエリアに圧倒的に多いということ。東証一部上場企業の数が渋谷が169社だとすると、千代田区と中央区は合計663社あり、圧倒的に多い※。また元々スタートアップの数も少なくありません。1億円以上資金を調達しているスタートアップの数は渋谷が205社、対して千代田区と中央区は合計179社。実はスタートアップの数も渋谷に迫るのです。

*上場企業サーチ「上場企業の本店所在地マップ」 (最終閲覧⽇:2018年9⽉1⽇)より

塩畑 なぜワークスペース「THE E.A.S.T.」というリアルな場をこのエリアに展開するかという理由が、そこにありますね。

スタートアップを成長させるにあたって、リアルなコミュニケーションが交錯する場は必要です。自分と同じような経験を積んできた人、あるいは1歩先、2歩先を行っている先輩起業家ともコミュニケーションが取れる。あえて時間をつくらずとも、そこに行けば自然発生的に会話ができるという期待感。これがリアルの場で求められるところではないでしょうか。

だからこそ⼤企業が多い中央区・千代⽥区の中で、アクセスが良くなおかつ⽐較的家賃の安い場所。具体的には⽇本橋の裏側である⼈形町、小伝馬町、東日本橋界隈−−−−「THE E.A.S.T.」を展開するエリアの根拠はこのあたりです。

栗島 青山で自分のコワーキングスペースを持ったり、起業家ハウスを運営したりといった、これまでの私自身の経験から分かったことですが、スタートアップはモメンタム、つまり勢いがすごく重要なんですね。

人間って浮き沈みがあるけど、沈んだとしても周りに勢いがある連中がいると、お互い刺激し合いながら上がっていける。そういったモメンタムを作り出す支援は「THE E.A.S.T.」でも力を入れていきたいところです。

もうひとつ日本橋にはレガシー産業の構造を理解した優秀な大人が多いことも魅力です。「20歳の起業家と比較して45歳の起業家は、 トップ0.1%以内の急成長スタートアップを 創業する確率が18倍も高かった※」というデータがあるように、大人起業家は成功可能性が高い。

一方で大人であるが故に仕事や家庭など失うものも大きく、リスクヘッジする必要もあります。

そこで提案したいのが、隠れたサイドプロジェクトとしての起業準備。31VENTURESと2019年から始めていた Swing-By(スイングバイ) のコンセプトは正に「社会人のための 隠れプロジェクトコミュニティ」なんです。このプロジェクトからは既に5000万円単位での資金調達をするスタートアップも生まれていて、手応えを感じています。

隠れプロジェクトを進行するには、本業の会社から近い場所に第二の拠点を持つ必要があり、その点でも大企業が多い日本橋界隈に「THE E.A.S.T.」を展開する意義がある。

塩畑 レガシー企業が多く、そこで働く優秀な人材も多い。地域に歴史があり老舗が多く文化も成熟している。一方で家賃の手頃な人形町のような地域もあり、スタートアップを招き入れる懐の深さもある。日本橋はイノベーションを生み出すエコシステムが醸成されるための、条件が整っているんです。我々のミッションはまさに、日本橋を中心にイノベーションを生み出すエコシステムを作ることなのです。

エコシステムをつくると謳うからには三井不動産も自社の枠組みを取り払って地域を盛り上げていく覚悟があります。VCや投資家を呼び込むことに加え、社外の協力体制も充実させます。スタートアップを支援するプロトスターとガッツリ協力体制をつくるのも、覚悟の表れです。また不動産に関しても、周辺エリアで場を提供しているほかのデベロッパーさんと組むというところにも、踏み出していくつもりです。

オープンイノベーションを加速するTHE E.A.S.T.の仕組み

塩畑 実は「THE E.A.S.T.」のコンセプトが練り上がるまでは、試行錯誤もありました。これまで我々が運営していたClipニホンバシなどはスタートアップだけでなく、大企業の新規事業開発担当やフリーランスの方々などもいる多様な場でした。
31VENURESが設立当初は「いろんな人が集まるとイノベーションが起こる」という仮説を我々は持っていたんですね。

ところがいろんな人を集めた結果、いろんな人が居すぎて交わり辛くなってしまった。Clipニホンバシは場所柄、起業家も多かったのですが単にコワーキングスペースの席を使うだけの方々も多かったのです。一方で本当にそこに腰を据えてプロトスターさんのメンタリングを受けて起業したい方もいた。そういった本気で起業したい人からすると、同じ場に起業目線の方が少ないのは物足りないのです。

そこで「THE E.A.S.T.」ではある程度審査を設けて、本気で起業や事業開発したい人に集まってもらうことにしました。

栗島 重ねて言いますが、起業家が成長するためには「モメンタム(勢い)」が大事なのです。急成長する方が隣にいると、その成功事例をモデルに周りの方が引き上げられていきますから、集積するということに大きな意味がある。それは地域レベルでも、ワークプレイスといったコミュニティレベルでも同様です。

「THE E.A.S.T.」がターゲットにしている大人起業家の方々は、安定している反面、下手するとモメンタムがゆったりしている場合もあります。それが強みでもあり、弱みでもある。こういったところを良い方向に後押しできる環境が、この場所の役割なのかなと見ています。

そして単に集まってもらっただけではなく、しっかりと私たちも入り込みます。

塩畑 そうですね。この施設「THE E.A.S.T.」に入居すると、スタートアップ側には何が期待できるのかがという点、特にソフトの面が最重要です。

まずは起業家の支援について、プロトスターさんに常駐いただきながら、起業家との壁打ちをサポートしていく。あとは、当然ながら31VENUTRESで運営していますので、三井不動産グループと協業ができるかどうかのフィードバックを、定期的なメンタリングのなかでしていく。もうひとつは、ファンドの部分です。31VENUTRESでは2016年からベンチャーキャピタルのグローバル・ブレインさんとCVCファンドを運用しています。スタートアップのハンズオン支援で定評のあるグローバル・ブレインさんにも入っていただきながら、入居スタートアップとの壁打ち、メンタリングというところをサポートします。

ステージによって必要とされるサポート体制が違うので、そのどのステージにも対応していきます。

栗島 我々が起業家にどんなバリューを提供できるかどうかが肝ですよね。結局、起業家に価値提供するには、大企業を具体的にすぐつなげられるとか、ファイナンスの投資とつなげられるとか、そういう具体的なメリットがないと。

その点プロトスターは、スタートアップを投資家や事業会社につないだ件数では、日本でトップクラスだと思います。加えてスタートアップのメディア露出も得意です。我々にしか提供できない価値のポイントは多くあるはずです。

塩畑 施設面では、仕事場としての快適性は当然として、「THE E.A.S.T.」では特に配信設備を充実させています。スタートアップは「自分たちはこんなサービスをやる」という発信が重要だと思っているんですね。だからオフライン・オンライン併用型の、配信ができる設備の整ったイベントスペースを設けています。

運営を牽引するふたりが「THE E.A.S.T.」にかける想いとは?

栗島 成果をあげるための具体的な支援策として、プロトスターが「THE E.A.S.T.」で力を入れていきたいのは、成功体験を積む場を提供することです。会社員として長く経験のある方ですと、会議で事業が決まることが多く、決断経験が少ないんですね。かつ自分自身で成し遂げた成功体験が少ないというのが、私の実感値です。

決断経験、成功体験を重ねると、人間は変わってきます。面白いのが起業家の成長とか人間の成長ってUカーブみたいなものじゃなくて、断崖絶壁なんですね。直角なんです。ゲームのスキルのようなものに近くて、特定の実績が何個か開放されるとレベルがアップする。ですから多くの成功体験を積む場の演出が大切だというのが、最近の私の考えです。

そこで直近では投資家さんを50名ぐらい集めて、そこに向けてプレゼンテーションをする場を準備したりしています。こういった発表をして優勝するとか、投資家から資金調達をするといった成功体験を積めると、成長が加速すると想定しています。

塩畑 E.A.S.T.構想の最初の目標としては、2025年のタイミングでこの日本橋を、日本有数のスタートアップ集積地にすることです。定量的な目標をあげるのは難しいのですが、2025年までに時価総額100億を超える企業を50社以上、このエリアに集めたい。

例えば2010年以降の創業の会社で100億以上の企業は、渋谷に18社あるんですね。港区は40社以上。対して中央区は、まだ13社しかいない。千代田区も14社。ですから日本橋エリアで50社ぐらいにもっていきたいなというのが、当面の目標です。

31VENTURESとしてはスタートアップと大企業の橋渡しに全力で取り組んでいくつもりです。もともと僕自身新規事業をつくりたいという思いがずっとありました。ですから大企業の事業のひとつとして31VENTURESに取り組んでいるのではない。個人的な思い入れがあるのです。

スタートアップ支援という言葉を、僕は使いたくない。スタートアップが成長するための環境を整えるのは大企業かもしれませんが、恩恵を受けるのは我々の方なんですね。ですから対等な関係で、イノベーションを起こしていきたいですね。

栗島 支援をするというより、私たちが旗振りをやるので一緒に踊っていただきたいのです。スタートアップとして新しいことをやるからには、真面目一辺倒ではつまらない。大人だからできる悪ふざけを、子ども心を思い出して、一緒に楽しんでいきましょう。東京の東側という祭りが多い場所で「一緒に祭りをつくろうよ!」という感覚です。

取材日 2021年02月