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2019.09.03

画像認識で世界はつながる。シンガポールのAI企業「ViSenze」が見据える未来

世界中の小売業者から注目されているシンガポールのAIスタートアップ企業「ViSenze」。ViSenzeは深層機械学習やコンピュータビジョンといったテクノロジーをベースとし、小売業者を中心に、ビジュアル検索や画像認識ソリューションを開発しています。日本国内でも大手アパレルメーカーが導入して話題になりましたが、ビジュアルコマース普及に向けた加速装置として、期待されている存在です。

今回はViSenzeの共同創業者でありCEOのOliver Tan(オリヴァー・タン)氏の来日に合わせ、「31VENTURES」において三者のインタビューが実現しました。参加メンバーはオリヴァー氏、三井不動産「&mall」事業室の中田敏文氏、31VRNTURESの能登谷寛氏の3名です。

三井不動産とViSenzeのつながりや画像解析機能によって変わる未来、さらにViSenzeを導入予定の「&mall」の展望など、ざっくばらんにお話しいただきました。

・Oliver Tan(オリヴァー・タン) ViSenze共同創業者、CEO https://www.visenze.com/

・中田 敏文 三井不動産株式会社 商業施設本部 &mall事業室 主事

・能登谷 寛 三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ 主事

実は縁が深いViSenzeと三井不動産

2012年から三井不動産が東京大学産学協創推進本部らと共に主催しているイノベーション・アワード「AEA(Asian Entrepreneurship Award)」。実はViSenzeは、2017年のAEAにおいて2位に入賞しているのです。

31VENURESの能登谷は本アワードの開催意義について次のように語っています。

能登谷 アジア・パシフィックにおけるイノベーションのエコシステムを新たに構築するために開催されているアワードです。最先端のテクノロジーにフォーカスし、シリコンバレーではなく、ベルリンでもなく、アジア発という点に価値をおいています。産学官連携による包括的な支援によって、若き起業家を柏の葉(千葉県柏市)に呼び込み、事業を前進させる契機にしてほしいという思いで、2012年より毎年開催しています。

シンガポール国立大学のコミュニティでAEAを知ったオリヴァー氏は、2017年にAEAにエントリー。その頃、日本にビジネスを拡大していこうと具体的な検討を開始したタイミングだったといいます。

オリヴァー アジア発のイノベーションをというAEAのビジョンにも共感をしましたし、当時は日本企業とのビジネスを強化していくために、つながりをつくれないか模索しているところでした。AEAであれば、参加者もオーディエンスも日本人が多いだろう。そう思い、エントリーを決めました。

2019年現在、画像検索は徐々に身近になりつつありますが、2年前は今以上にベールに包まれていました。AEAで入賞したことは光栄で、もちろん嬉しかったのですが、それ以上に三井不動産をはじめとした、アーリーステージの技術に関心を示す日本企業とつながりを持てたことに意義があったと感じています。

能登谷 AEAを機にViSenzeは日本企業との取引を始めていますが、&mallもそのうちの一つです。アワードから少し経った頃、アワードのレポートを社内ポータルに掲載し、&mallの当時の担当と中田さんのチームから問い合わせが入りました。中田ちょうど&mallのローンチ時期と重なったこともあり、&mallのサービスを磨いていくためには新たな取り組みが必要だと感じていました。

日本の大手企業が海外スタートアップと協業する例は多くありませんが、「これだ!」と直感した&mallチームは、AEA担当者にViSenzeを紹介してほしいとコンタクトをとったのです。それが本プロジェクトの始まりでした。

「&mall」がまもなくViSenzeを導入。
より感覚的な買い物体験を

三井不動産が運営する「&mall」は、ららぽーと、ラゾーナ、ダイバーシティなどに店舗を構える約200ショップのアイテムを購入できるオンラインストア。2017年11月のオープン以来、ユーザーを増やしてきましたが、2019年のリニューアルでViSenzeの画像認識技術を導入。これまでテキストのみだった検索方法に画像検索をが加され、現在見ている商品と類似の商品がショップ横断的に表示されるようになります。

&mall事業室でリニューアルのWebサイト構築を担当する中田氏は、ViSenze導入の狙いについて次のように述べました。

中田 ViSenzeが提供する画像検索の技術は、オンラインショッピングという体験とリアルの生活との垣根を無くす役割を持っていると思います。三井不動産は商業施設を運営しているので、来館価値を高めることを常に考えてきました。しかし、ViSenzeを導入すれば、これまでECで叶えられなかった“リアルさ”を提供でき、顧客の自己実現に貢献できるのではないかと考えています。

オリヴァー &mallの、“リアル店舗共生型ECモール”は面白いコンセプトだと思います。オフラインとオンラインどちらのサービスも提供していると、人の動きがより鮮明に分かったり、面白い販促企画を組めたりと、できることが増えますよね。

カスタマージャーニーを徹底的に

オリヴァー氏は現在のオンラインショッピングのCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客満足度)について、サービス提供者が改善できることはまだまだ多いと指摘します。

オリヴァー リアルの買い物体験でもオンラインショッピングでも、消費者自身が商品を探さなければならないという構造は変わりません。ミレニアル世代以下は、“クイック”な体験に慣れているので、欲しいものが見つからなければすぐに離脱していまします。
消費者が選ぶWhere、When、Howに目を向けること。そしてサービス提供者はWhere、When、Howの選択肢を与えることが大切です。ただし、手法に関わらず共通なのは、消費者をワクワクさせる体験とは何なのかという前提の姿勢を忘れないことです。

中田 &mallがViSenzeの導入を決めた理由は、オリヴァーさんの話からも分かるように、“カスタマー起点”だからです。技術のための技術になってしまうスタートアップがたまにいますが、ViSenzeはCXが上位に来ます。だからこそ、あのサービスが生まれているのだと思います。

能登谷 AEAのときのエピソードで強烈に覚えている質問があります。審査員がViSenzeに『小売だけでなく、他の業界向けに何か開発する予定はあるか?』と聞いたんです。オリヴァーさんは『NO』と言いました。なぜなら商品のディテールというのは、ものすごく奥深いから。ネイビーと言っても黒に近いものと青に近いものがあるし、ストライプと言っても線の太さや幅はバラバラです。そこを追求しないと、ECの価値は上がらないと。

オリヴァー 消費者の頭の中は複雑です。特に、ファッションアイテムが多彩な女性にとっては、ハイヒールの高さが1センチ違うだけでそれは別物。だからディテールにこだわることはとても大切なのです。

画像認識ソリューションは、世界をつなぐ

&mallの中田氏は、ViSenzeと組むことのもう一つの狙いを「知見の拡大」と据えています。

中田 日本の大手企業が海外のスタートアップをパートナーにするという動きはまだまだ一般的とは言えないと思います。ですが、グローバルに展開している企業と組むことで、海外の生の事例を知ることができます。海外では何がトレンドで、何が課題で、どんなUIUXが受けているのか。世界の動きにアンテナを張ることができる点が副次的なメリットだと思いますね。オリヴァー日本企業や日本人は、語学にコンプレックスを抱えているように思います。一方、画像というのは『非言語』なのです。ミッキーマウスの画像を見せられたら、世界中の誰もがミッキーマウスだと分かりますよね。画像認識ソリューションを使えば、日本企業はビジネスチャンスが拡がるし、消費者も体験の幅が広がります。

最後に、オリヴァーさんは「良いテクノロジーとは何か」に言及しました。

オリヴァー 良いテクノロジーとは、市場を変えるインパクトを持つもの。けれども、一発でそこに辿り着けるわけではありません。顧客や競合と一緒に課題に向きあいながら、一つひとつ解決の手立てを積み上げていくもの。

競合は敵ではありません。マーケット分析をするとなると、競合の存在は無視できませんが、競合がいるというのは社会的にも良いことです。競争によって質が高まり、競争によって新たな技術が生まれます。そして競争が始まると、じきにコラボレーションが生まれ、新たなイノベーションが生まれていくのです。

三井不動産や31VENTURESの支援には感謝しています。小売業界というのはとても複雑で、サプライチェーンや顧客体験など、いろいろな要素からなります。自社だけですべての問題を解決できる企業はありません。他社の事例を知ったり協業したりしながら、サービスは磨かれていくのです。そういった点でも、このようなコミュニティは他社とのシナジー効果が得られやすいため、31VENURESのコミュニティ運営には今後も期待しています。

画像認識技術によって、世界はボーダレスになっていく。知見を中に溜めるのではなく、外に出してつながることでイノベーションが生まれる。示唆に富んだ話が次々と飛び出すインタビューとなりました。ViSenzeの機能を搭載したリニューアル後の&mallも、楽しみにお待ちください!(ニシブマリエ)