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2019.08.20

【AEAプレイベント レポート3】なぜ今アジアに投資/協業先を求めるのか

7月30日に行われたアジア・アントレプレナーシップ・アワード2019(AEA2019)プレイベントの様子を3回にわけてお届けします。 最後は、基調講演で登壇していただいた方が一堂に会して「なぜ今アジアに投資/協業先を求めるのか」をテーマにパネルディスカッションを行いました。実際にアジアでビジネスを行っているからこそわかる、魅力や課題などをさまざまな視点から語っていただきました。

・各務茂夫 AEA運営委員会 委員長 / 東京大学教授

・澤田佳世子 日本貿易振興機構(JETRO) ジェトロ シンガポール事務所 イノベーション事業担当

・清水顕司 日本貿易振興機構(JETRO)ジェトロ 広州事務所

・西脇資哲 日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト(業務執執行役員)

・楊在晩 株式会社電通 JKT48プロデューサー

アジアの中の日本をどう見るか

各務 このパネルディスカッションでは、アジアと日本をテーマに考えたいと思います。特に「協業」について多くの日本企業から見たときに、アジアをどう捉えるのか。あるいは、アジアから日本がどう見られているのかという点を探れればと思います。最初に質問したいのは「日本からアジアをどう見るか?」「アジアから見たときに日本がどう見えるか?」についてです。一部では、日本がアジア全体の中で見るとポジションが落ちてきているのではないかという見方もあります。かつてはアジアのヘッドクオーターといわれていましたが、それが中国や香港に移ったり、ものによってはオーストラリアに移ったりしています。 西脇さんは日本とアジアの関係をどう見ていますか。

西脇 マイクロソフトは本社がアメリカにありますので、アメリカから日本を見る視点でコメントさせていただきます。日本は昔は、我々のようなグローバルカンパニーでいうと、1割か2割ぐらいのレベニューシェアをもっていて、投資を行ってきました。しかしそれは過去の話です。これからの未来を考えたときには、BtoBとBtoCのマーケットのサイズが大きくなる可能性のある所に投資をします。となると、日本は人口が減るのでBtoCのマーケットは減る。そうすると我々が目線を向けるのは日本以外のアジアの国です。人口爆発国に当然目を向けます。

各務 スタートアップの中では「アメリカのビジネスのやり方」を押し付ける傾向があるといわれることもありますよね。
それに対して日本企業は、特に非英語圏で顕著ですが、その国の状況にあわせてカスタマイゼーションをしていく傾向があります。そのカスタマイゼーションが、日本の強みであり、ビジネスチャンスではないかと聞くこともありますが、いかがでしょうか。

西脇 同じことをたくさんの人に広めたほうが爆発的な成長になる。スタートアップはそうした事業に魅力を感じているので、一つ一つに対してのカスタマイズは難しいかなと思います。ただ、国ごとにカスタマイズは日本が上手にできると思っています。日本人は、相手の地域の人やお客さんに合意を得て進めていくのは上手です。海外進出するうえでの、頭の柔らかさや柔軟さは持っていると思います。

アジアのスタートアップ事情

各務 JETRO様は、国を挙げて企業のインバウンドとアウトバウンドをやっていますよね。特に経産省ではJ-startupなどで日本のスタートアップを海外に進出させたり、日本進出の支援もされています。その中でアウトバウンド・インバウンド両方においてご支援されているお二人は現状、日本とアジアの実態をどう見ていますか。

澤田 私からは、シンガポールと東南アジアの状況をお伝えします。日本から東南アジアに進出しようとしているスタートアップは、今非常に活発化しています。3年前は視察の募集をかけても枠が埋まりませんでしたが、最近は応募過多で抽選をしているほどです。 また、シンガポールのテックカンファレンス「Tech in Asia2018」で日本企業が優勝したり、ピッチコンペテイションの「SLINGSHOT」で3位入賞した日本企業もありました。日本から挑戦している企業も増えていると実感しています。

清水 中国のマーケットに参入したいと考えている日本のスタートアップの方は、とても多いという印象を持っています。ただ、そうした方々に事前に理解していただきたいのは、中国の経営者の目線は中国のマーケットだけでなく、グローバルにあるということです。特に深センは海外から帰ってきた人が起業しているため、なおさらです。そうした前提を踏まえた上で、関わることが重要です。

日本企業に期待されていること

各務 海外のスタートアップは日本企業に何を期待していますか?

澤田 東南アジアのスタートアップが日本企業に対して期待していることの一つは、EXIT先です。東南アジアのスタートアップのEXITは、中国のジャイアント企業に買ってもらうか、香港市場やアメリカ市場で上場するといった選択肢しかないので、その一つとして期待されています。 もう一つは技術力です。資金は潤沢にあるが、実証の場や技術力が足りていないスタートアップは少なくないため、日本国内のイベントにも多数問い合わせがあります。

清水 中国、特に深センのスタートアップは、日本の製造業へのリスペクトは非常に高いです。 中国のスタートアップに対しては、技術があり、資金もあるが、社会への役立て方がまだまだ経験不足だという印象を持っています。日本企業とのオープンイノベーションによって、その課題を解決できるかもしれませんね。3,4年ぐらい前から深センの企業を回り、すでに投資をしている日本企業もあります。

各務 ジャカルタでアイドルグループJKT48のプロデュースをされている楊さんにお伺いします。アジアから日本が期待されていることはコンテンツやカルチャーではあるのでしょうか。

 日本にしかないものは原作ですよね。アニメや小説の原作を販売するのが、一つのオポチュニティだと個人的に思っています。しかし原作の販売だけだと、やはり単価が安い。原作の販売から他のビジネスに連携し、コラボなどももっと考えていくことが必要です。

日本と連携するメリットとは

各務 AEA2019の話に少し戻りたいと思います。アジアのスタートアップ企業と日本企業が接点を持つことで、様々な機会が生まれます。その中で、アジアのスタートアップが日本に入ってくるにあたって、何がポイントでしょうか。AEAはその中でどういうきっかけになると思いますか。

澤田 日本は東南アジアから見ると、一番近い先進国で、安定した国です。安定した国というのは、政治経済的・制度的に安定しているということです。すぐに制度が変わらないので、確実なビジネスが期待できます。一方で課題は、「分かりにくさ」です。言語の壁もありますが、日本の課題というのが東南アジアの人にはいまいち分からないんです。例えば、ジャカルタで毎日交通渋滞に困っている人たちにとって、日本の通勤電車の地獄は理解できない。なぜなら、ジャカルタは今年初めてようやく通勤電車の路線が通った国で、それが都市における交通渋滞の一番の解決策になっているからです。電車の乗車率が200%で困っている日本の課題は伝わらない。それをどう伝えるかが一つの課題だと思います。その中で、日本の課題や状況を英語でアジアのスタートアップのキーマンに伝えることができるAEAは、素晴らしいイベントだと思っています。また日本の大学にある技術のシーズを、日本の企業家の方々はもちろん、東南アジアの非常にやる気あふれる若い起業家の方々が知ることで、それをどうやってビジネス化できるのかを考える場があると、さらに良いのではないかと思っています。

西脇 日本の会社に対して、アジアのベンチャーが求めているものに「信用」があると思うんです。日本の会社と取引しているというのはすごいバリューなので、そこにメリットがあります。一方、日本の企業がアジアのベンチャーをどう見ているかといえば、昔とあまり変わらない。「弱い」「信用がない」「入金のときに値切られる」とか。ですがそんなことは絶対ありません。むしろ向こうの方が信用高いし、支払いだって先に入金してくれることもある。これは、人口の比率が全然違っていて、日本の何倍もの人口を持っているので、ピラミッドのトップは大きいからです。だから、すごく優秀な人たちが頑張っていて、彼らは最初から世界を見ています。なので我々もそのマインドにならなければならないと思います。

アジアのスタートアップを受け入れるために必要なこと

各務 アジアのスタートアップが、日本市場で事業拡大する際、どのステージにおいて課題が大きいのでしょうか。 

清水 中国においても、日本企業はリスペクトされているという印象を持っています。ただ、具体的な接点をみつけられていないという中国企業が多いです。先進国であり、モノづくりが素晴らしくて、基礎研究も進んでいるという日本の印象を持っているが、どのように接点を持てばよいのだろうという疑問を持っているスタートアップも少なくない。また、深センは、一週間で物事を決めてすぐ動きます。一方、日本の企業は遅いです。ただ、自分たちが求めているのはこういうことなんですよ、というのを最初に伝えておくと、彼らはどういう風に協業できるかを自分たちでも考えます。日本の企業の方が、自分たちの課題を理解したうえで中国や東南アジアのスタートアップと接点を持つことが、日本に彼らを呼び込んで協業する大きな一歩になるのではないかと思います。

各務 西脇さんは世界で最もグローバルな企業にいらっしゃいます。これだけグローバル化が叫ばれているなかで、グローバル企業であるマイクロソフトさんやグーグルさんは多くの会社を買って、それを統合しています。日本企業が、アジアのスタートアップを取り込んで一緒にやっていこうとしたときに、企業の中にレセプター(受け入れ体制)があるかどうかという問題は長く議論されてきました。日本マイクロソフトにおいて、アジアの企業との接点を持ったときのレセプターの作り方など、日本企業に示唆を与えていただけないでしょうか。

西脇 マイクロソフト全体の活動の中では、責任を持っているエリアがあるというだけで、日本とアメリカでマイクロソフトがやっている活動には基本的には差異はありません。ということは、マイクロソフトがグローバルでやっているというマインド、あるいは受容の能力というのは日本でも活かされています。マイクロソフトで働いていると、自然と国ではなくグローバルでビジネスを見るようになります。日本マイクロソフトなので、日本のマーケットで頑張っているように見えますが、企業文化としてはそうじゃないんです。日本の会社は、これから海外に進出するとなると「お前はアジア進出担当部長だな」となります。一方スタートアップは、最初から国境がないんです。世界でやっていくと最初から決めているので、我々もそういう方々とお付き合いしていて感度が合っていると感じます。

各務 グローバルな視点をお持ちの楊さんから見て、日本の企業がスタートアップとやり取りするときのヒントを教えてください。

 僕もインドネシアでいくつかのスタートアップの方と話してみると、日本の方から見ると少しドライでありながらも、大事なことを淡々と進めているという印象を持ちます。これまでも私が個人的に接してきた日本の方のなかには、良いサービスをお見せしても既存の慣習や業界の仕組みで「これは難しい」という判断を先に下す方が少なくありませんでした。 日本にもいろいろなコミュニティがあると思いますが、「まず取り入れて考えてみる」という文化ができればいいなと思います。

アジア市場に進出する日本企業の課題

各務 日本のスタートアップが海外に進出するときに、とりわけアジア市場というのをどう捉えているのでしょうか。今、実際にアジアを目指している日本企業にとって何が一番の課題ですか。

清水 特に中国市場に参入するスタートアップは「日本は少子高齢化で小さくなるから、中国の市場をしっかり取り込みたい」とよくおっしゃいます。それは間違いなく正しい。一方で、ただ進出するのではなく、どうやって進出するかを考えるのがすごく大事です。
中国で旗上げしようと思っているスタートアップは、中国の十何億の競争の中で勝とうとして、学業の面でも勝ってきた方がほとんどです。中国の人材は、日本の人材の給与を3倍にしても取れません。一般の製造業でも、R&D担当者を雇いたいといったときに、日本人と同じ給料を払っても、上海や深センではもう来てくれないんです。

澤田 海外で何が起きているかを捉えきれていないこと、あるいは海外で何を目指すのかという課題意識・課題設定ができていないことが課題だと私は思います。
JETROから出している、通常の経済概況というのは一年に一回しか更新しないのですが、イノベーションやテクノロジーに関するレポートは二週間に一回更新しています。変化が早いので、私どもも半年後には違うことを言っているかもしれない状況です。変化の中で、柔軟でありながらも大胆な決定をしていかなければいけない。そのためにも日本語の情報だけでなく、英語の情報にふれる。またWEBの情報だけではなくて、ネットワークを拡げて、生の情報をもって判断していくことが非常に大事だと思っています。

各務 最後に、AEA2019に向けて一言お願いいたします。

 私は広告代理店で働いているので、マーケティング担当・広報担当の方と打ち合わせする場面が多いのですが、このAEAをきっかけに一緒に事業を考える仲間が出来たことは本当にうれしいです。ぜひ、一緒に事業を創っていく仲間になれればと思います。

西脇 AEAは、アジアの国や地域、そして大企業からベンチャー、そして我々のような外資系企業まで集まるので、多様性があります。先ほどのJETROさんのお話にもありましたが、いろんな情報を収集しないと今はもう勝てない。情報戦ですから、たくさん情報を持っていた方が有利になります。AEAでは、これだけ素晴らしい場所を提供されているので、個々の中で活発な議論、活発なコミュニケーションが生まれて、それが成長につながることを願っています。

澤田 日本国内で、これだけ素晴らしい方々が集まるイベントはそうそうありません。ですので、その場を何とか活用するために、血眼になって、とりあえず知らない人全員とコネクションを作るというような目標をもって参加されればいいのではないかと思います。

清水 AEAのプラットフォームに私どももすごく期待を持っていますので、是非一緒にアジアの活力を取り込めればなと思っています。