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2019.08.20

【AEAプレイベント レポート1】アジアベンチャーの最新動向と協業・連携ノウハウとは

 7月30日に行われたアジア・アントレプレナーシップ・アワード2019(AEA2019)プレイベントの様子を3回にわけてお届けします。 第1回では、10月30日〜11月1日かけて開催されるAEA2019の運営委員長である各務氏の開会挨拶のほか、成長著しいアジアのベンチャー企業事情や、協業・連携ノウハウについて実際の企業担当者よりご紹介いただいた内容を掲載します。

「21世紀はアジアの時代」 AEAの意義と日本

AEA運営委員会 委員長 / 東京大学教授 各務 茂夫氏

イベントは、AEA運営委員会委員長であり、東京大学教授の各務茂夫氏による開会挨拶から幕を開けた。 冒頭、各務氏は1990年以降の日本の経済成長の低迷について触れた。1992年の時点では時価総額世界トップ30の約3分の1を占めていた日本企業が、2017年には1社も名を連ねなくなってしまっている。この現実を受け止めた上で、日本と日本企業はどうあるべきか、という問いがAEAの原点にあると語った。 あわせて重要なのが「21世紀はアジアの時代」であることだ。「2050年には、アジアは世界全体のGDPの半分以上を占めるとされています。2019年現在のユニコーン企業にも、中国だけでなく、インドやインドネシアといったアジアの企業が多くいます。シリコンバレーのベンチャーキャピタルも、アジアの企業に目をつけている時代です」AEAは大学との結びつきも強い。日本では2004年に国立大学が法人化したことにより、大学発のベンチャーも活発になった。歴史的に考えても、イノベーションの種はアカデミックな研究から出てきており、大学との連携は企業の成長にとってますます重要になっている。 オープン・イノベーションの流れも、これを促進させている。「企業」「大学」「大学ベンチャー」がそれぞれに踏み込んだ連携をおこない「オープンイノベーションの果実をとる」ことの重要性を強調した。またアジアに関しても、マーケットとしてアジアをみるのではなく、優れた研究が眠っている場所としてアジアをみることも大切だと各務氏は話し、総体としてアジアの風を、日本にとりこみたいと意気込んだ。「大学にあるサイエンスをイノベーションに結実させるためには、それがビジネスにつながることをアピールするためのショーケースが必要です。セクシーな技術とアントレプレナーシップを持った若いチームが、社会課題の解決につなげるビジネスアイデアを競い合い、披露するためのショーケースがAEAなのです」AEA2019には15ヶ国から企業が参加する。「AEAが日本、そしてアジアにおけるイノベーションのプラットフォームの確固たる基盤となれるように願っている」と述べて開会挨拶をしめくくった。

「製品開発」から「複合創造」の時代へ

日本マイクロソフト株式会社 エバンジェリスト(業務執⾏役員)  ⻄脇 資哲氏

続いて、⽇本マイクロソフト株式会社エバンジェリストの⻄脇資哲氏が「アジアにおけるオープンイノベーション成功のカギ」と題して講演した。西脇氏はエバンジェリストとして、マイクロソフトの製品やサービスを伝え広めるほか、ドローンをはじめとした新規事業への投資も行なっている。マイクロソフトの歴史を振り返りながら、世界の変化を踏まえ、マイクロソフトも変化していることを説明した。「2019年に世界で最も見られている作品はハリウッド映画ではなく、Netflixで制作され、配信されている番組です。また、年間流通総額約62兆円のアリババ、FacebookやInstagramを超える月間5億ユーザーを抱えるTikTokなど、中国企業も台頭しています。大きく変化している社会において、企業はどのように生き残るべきでしょうか?」マイクロソフトは2015年にミッションを「地球上のすべての人やすべての組織に、より多くのことを達成できるよう力を与えること」と改め、オープン戦略と企業間連携を事業戦略に掲げた。WindowsやOfficeなどの自社製品ではなく、Azureをはじめとするクラウド製品に注力。ブロックチェーン、量子コンピュータ、AI、MRといった分野への投資を活性化させている。 特に目玉としているのがスタートアップ支援プログラムである「Microsoft for startup」だ。14ヶ国を超える国や地域で展開されており、今後2年間で540億円以上の投資を行なっていくという。また、オープンイノベーションの実績として、Mass分野において、JR東日本、日本生命、など大手企業やスタートアップと連携して行なっているプロジェクトを紹介した。まとめとして、企業が一つの製品やサービスを作っていた「製品開発」の時代から、複数の企業が多様な領域にまたがって事業を創造していく「複合創造」の時代へ変化しているとし、仕組みづくりを一緒にできる企業と協業し、イノベーションを起こしていきたいと話を締めくくった。

東南アジアと深センの最新動向

日本貿易振興機構(JETRO)
—ジェトロ シンガポール事務所 イノベーション事業担当:澤田 佳世子氏
—ジェトロ 広州事務所 所長:清水 顕司氏

次は「アジアにおける具体的な協業の取り組み事例」と題して、日本貿易振興機構(JETRO)と株式会社電通による講演が行われた。 JETROからは、前半はシンガポール事務所イノベーション事業担当の澤田佳世子氏が、東南アジアにおけるイノベーションと日系企業の事例について語った。「世界的にテックへの投資が加熱するなか、アジアへの投資も増加しています。2019年のエコシステムランキングのトップ15には、北京・上海・シンガポールと、3つの都市がランクインしました。そんななか、東南アジアにもユニコーン企業が6つ存在。2018年にはテックへの投資額が1兆円を超え、EXIT数も増加しています」背景にあるのは、東南アジアの急激な経済成長だ。2025年にはASEAN全体が日本のGDPを上回ると予測されている。そんな東南アジアに、日本企業はどうアプローチするべきなのか。 澤田氏は、これから伸びるベンチャー企業のキーワードに「Social Good」を挙げる。社会的課題を解決するビジネスに投資が集まっていることを説明。また、東南アジアは政府機関が主導になってエコシステムを構築していることが特徴だとし、都市ごとに市場をみることの大切さも強調した。 在シンガポール系企業の例を紹介しつつ、日系のエコシステムも存在感を示していると報告。東南アジアの起業家が日系企業に期待しているポイントに、技術力や既存工場などの設備面があるとした。

後半は広州事務所所長の清水顕司氏が、中国・深センの最新事情について話した。 電気・電子産業が集結し、世界で唯一無二のエコシステムを形成している深セン。「ハードウェアのシリコンバレー」とも呼ばれるほど、ものづくり企業が集中しているため、日本企業とも協業の可能性が強くあるという。また、中国主要都市のなかで最も起業が盛んな都市であること、中国における特許出願件数の約半分を占めていることを紹介。中国は国全体で何千億円という額をスタートアップ支援に投じているため、深センにおけるエコシステムも政府主導であることなどを説明した。JETROは、イノベーティブな技術・製品と知的財産を有する中小企業の海外展開を支援する「ジェトロ・イノベーション・プログラム」を深センでも行なっている。日本企業が最初に深センの企業にアクセスする機会としておすすめできると、本プログラムを紹介した。「JETROは現地のエコシステムに入り込んでおり、深センの企業やアクセレーターを日本に招聘するなど、日本企業との交流の場も積極的に作っています。近年、日本の大企業の方々も深センに目をむけるようになっており、オープンイノベーションが活発になってきている実感がある。実際に、日系企業が深センに法人を設立する成功事例もでてきています」最後に、日本企業が深センと連携を深めるために「中国を市場として捉えた開発・戦略の深堀」「現地人材のさらなる活用」「意思決定のスピード」といった課題を共有した。

コンテンツビジネスのアジア協業事例

株式会社電通 グローバルコンテンツビジネスプロデューサー中野義将⽒
JKT48プロデューサー楊在晩⽒

株式会社電通からは、前半にグローバルコンテンツビジネスプロデューサーの中野義将氏が登壇。電通が取り組んでいるeスポーツの展開事例を中心に、グローバルビジネスの進め方や海外協業について説明した。電通はグローバル展開や海外企業とのパートナーシップを強めており、145ヶ国に展開するグローバルネットワークを持っている。日本の人気番組のフォーマットを販売し、海外にローカライズさせていく取り組みなども積極的に行なっている。特に注目すべきなのが、中野氏が近年取り組んでいるeスポーツの展開事例だ。eスポーツは今後、オリンピックのような国際大会が開かれるといわれている。電通は日本eスポーツ連合のマーケティング専任代理店として、国際大会を見据えた日本のナショナルチームのスポンサー企業を集めている。同時に、eスポーツをさらに活性化させていくため、テレビ東京系列「有吉eeeee!~そうだ!今からお前んチでゲームしない?」やeスポーツの甲子園「STAGE:0」を企画していることを紹介した。 さらにこれをグローバルで展開して進めているのが、eスポーツのアジアリーグである「One Esports」だ。アジアの総合格闘技リーグを主催している「ONE Champhionship」と協業することで、「ONE Champhionship」のプラットフォームを使ってeスポーツをアジアに展開することに成功している。「グローバル規模で仕組みを作り、日本企業にスポンサードなどの形でつなげていく。電通が得意な分野を中心に、その半歩外に出る形で、新しいことにチャレンジしています」今後「One Esports」によって生まれたコンテンツやコミュニティ、背景にある膨大なデータなどを活用していく展望があるが、具体的な答えはまだ出ておらず、パートナーとなるベンチャー企業を求めているという。「電通のような企業から変わっていかなければいけない」と締め、挑戦して変わり続けて行く矜持を見せた。

後半は、JKT48のプロデューサー楊在晩氏が登壇。コンテンツビジネスにおけるローカライズの事例を語った。JKT48はAKB48グループのなかで、初の海外グループとして、電通が100%出資し2011年に作られたアイドルグループだ。劇場公演や握手会、選抜総選挙といったAKBの仕組みを完全にジャカルタにローカライズ。2014年からジャカルタ観光大使を務めるなど、インドネシアで若者を中心に国民的存在として認知されている。 一方で、アイドル文化の土壌がないなか、ジャカルタにJKT48を根付かせるには多くの困難があったと楊氏は振り返る。「そもそもアイドルとはなにか?」といったところから、ファンやスタッフ、そしてアイドルへの教育が必要だった。またインドネシアは9割がイスラム教徒であるため、日本のアイドルでは当たり前の水着グラビアもNG。日本ではCDに同封して販売している握手券も、ジャカルタではCDが普及していないため、新しい仕組みを作らなければならなかったことなどが語られた。現地に対応していく上でポリシーにしていたことは「常に現地確認。密着型エンタメは現地意見は9割正しい」という考え方だったと楊氏はいう。コンテンツ、ひいては文化自体のローカライズとして、興味深い事例だった。