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COLUMN
2017.12.15

「人生100年時代」における大企業のイノベーションとは

三井不動産では定期的に、ベンチャー企業やイノベーターとの出会いを通じて刺激と学びの機会を提供する「31VENTURES Meet Up!」を社内で開催しています。
2017年11月には特別編として、「大企業のイノベーションを考える」をテーマにトークセッションを行いました。 ゲストとしてお迎えしたのは、250万人が利用する経済ニュースアプリ「NewsPicks」の佐々木紀彦編集長と、大手企業の社員をベンチャー企業に“レンタル移籍”させるプラットフォーム「Loan DEAL」を運営する原田未来社長。 大企業がイノベーションを生み出すために必要な人材育成や、大企業に勤める社員のこれからの働き方、そして大企業の未来まで、ざっくばらんにお二人にお聞きしました。今回はその模様をお届けします。

・佐々木 紀彦 株式会社ニューズピックス 取締役 NewsPicks編集長
1979年福岡県生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業、スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済)。東洋経済新報社で自動車、IT業界などを担当。2012年11月、「東洋経済オンライン」編集長就任。2014年7月から現職。最新著書に『日本3.0』。ほかに『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』がある。https://newspicks.com

・原田 未来 株式会社ローンディール 代表取締役社長
ラクーンにて営業部長や新規事業責任者を歴任。マザーズ上場を経験。2014年、カカクコムに移籍。2015年7月、株式会社ローンディールを設立し、大企業社員をベンチャー企業にレンタル移籍(短期出向)させるプラットフォームを運営。これまでにNTT西日本、トレンドマイクロ等の大企業で採用されている。http://loandeal.jp

・光村 圭一郎 三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部
出版社勤務を経て2007年三井不動産入社。企業人・起業家・クリエイターのコラボ拠点「Clipニホンバシ」を立ち上げ。

これからの日本社会において、 大企業は生き残るべきか

光村 いま、三井不動産をはじめ、多くの大企業が既存のビジネスモデルに限界を感じています。大企業における「イノベーション」や「新規事業」というキーワードを目にしない日はないというくらい、注目されるようになりました。そんな中ではありますが、はじめに一つ“そもそも論”的な質問をしてみたいです。「はたして、大企業は生き残るべきなのか?」。既存のビジネスがマーケットにフィットしなくなったのなら、退場すればいいじゃんと、僕は思わなくもない。なぜ、大企業は苦手とされるイノベーションや新規事業に取り組まなければならないのか。

佐々木 いきなり痛烈な問いですね(笑)。率直に言えば、「生き残ったほうが良いところ」と「生き残らなくてもいいところ」があると思います。これまでの伝統や歴史、事業の蓄積が活きる業界や企業は、生き残る価値があるところ。不動産会社などはまさにそうですよね(笑)。一方で、我々がいるメディアやIT業界など、いわゆる「テクノロジー・オリエンテッド」なところは、いまの大企業が残る必要性は必ずしもないかもしれません。

原田 「過去の蓄積が活きる業界や会社」という観点はあるかもしれません。私たちは、大企業の人材をベンチャー企業に短期出向、つまりレンタル移籍させるサービスをしていますが、以前は経営企画や人事の方から問い合わせをいただくことが多かった。しかし最近は、研究開発部門からのお問い合わせが増えています。大企業は多かれ少なかれ、研究開発に長年多額の投資をし、蓄積してきた。それを活かさなければいけないけれども、そのためには人材の強化が必要という意識が、研究開発部門の方にも広がってきたのでしょう。「テクノロジー・オリエンテッド」な会社がリプレイスされていくという佐々木さんの意見には同意しつつ、世界的にテクノロジーをリードしてきた会社には、なんとか生き残ってほしいとも思っています。

佐々木 ただ、労働者人口の中で大企業で働いている方は17%ほどにすぎません。それなのに、いま国内で議論されている政策を見ていると、大企業の利益を前提にしているものが多い。それが社会全体のバランスを欠いているという側面はあるのではないかと思います。

「サラリーマン社長」でもイノベーションは生み出せる?

光村 僕は、AppleやGoogle、Facebookなどは、世界的大企業という規模になってもイノベーティブであり続けていると感じます。一方、彼らを「普通の大企業になってしまった」と評価する人もいます。そもそも「イノベーティブな会社」とは、どういう会社なのでしょうか。

佐々木 イノベーションにも、「持続的イノベーション」と、「破壊的なイノベーション」があります。ちょうど先日、NewsPicksで東京モーターショーにブースを出展したのですが、自動車業界はまさに破壊的イノベーションを求められている典型ですよね。これまではトヨタの「カイゼン」のように、持続的イノベーションで問題はなかった。けれどもEVや自動運転という新技術を前に、破壊的イノベーションに挑戦しなければならなくなった。持続的イノベーションをできる会社が、破壊的イノベーションもできるとは限らない。イノベーティブな会社のイメージがこれまでとは変わってきています。

原田 確かに、「持続的」なのか「破壊的」なのか、その二つはしっかり区別していかなければいけませんね。大企業でイノベーションというと、「破壊的」を求めているイメージが先行していますが、その業界、会社においてどちらが必要なのか、しっかり見極めたほうがいいと思います。

光村 いま生き残っている大企業は、持続的イノベーションは得意だったわけで、だからこそ生き残れた。しかし、そんな大企業が破壊的イノベーションを起こすことは可能なのでしょうか?

佐々木 一つ答えがあるとすれば、「社長で9割決まる」というのが正直なところです。ソフトバンクの孫(正義会長)さんのように、本当に信念のあるリーダーがいる企業は、どんどん変わっています。

原田 ロート製薬は山田(邦雄)会長が創業家出身ですけど、薬品だけでなく化粧品やアイス屋さんなんかもやっていて、かなり幅広いです。山田さんはインタビューで、「挑戦は、創業者から受け継がれた『DNA』なんだ」とおっしゃっていました。彼らは創業者、もしくはオーナー企業のトップですが、そのDNAが会社にもしっかり受け継がれ、「変えるぞ」という覚悟があれば、いわゆる「サラリーマン社長」でも破壊的イノベーションはできると思います。

佐々木 富士フイルムの古森(重隆会長)さんとか、伊藤忠商事の岡藤(正広社長)さんとか。ただ一般論として、後ろ盾がない「サラリーマン社長」が、周りに嫌われてでも大胆に改革を成功させるのは、かなり難易度が高いのは事実ですよね。

光村 ローンディールに期待されているのは、破壊的イノベーションを起こせる人を育てるということなんでしょうか。

原田 詳しくは後ほど話しますが、そういう面はあります。社長直々からの相談というよりは、事業部長クラスからの問い合わせが多いですけどね。けれども最終的には事業部だけではなく、社長から「新しいものを作るのは君の役割だ」とお墨付きを得た方に利用していただくことが多いです。

光村 日本の大企業がいかにイノベーションを唱えても、社内にはまだまだ保守的な風土が残っていると思います。たとえば、経営トップが「活きのいい若手をベンチャーにレンタル移籍させよう」と乗り気でも、事業部長は「いやいや、いまこいつに抜けられると困るから、ちょっと待って」みたいな話も出てくるのでは?逆に事業部長が乗り気でも、人事部門がストップをかけるとか。

原田 確かに、ありますね(笑)。ただ、アクセラレーションプログラムやCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を運営している会社こそ増えましたが、なかなか上手くいっていない。それで「結局、人が重要なんだ」ということに気づき始めている。この課題が、経営トップ、事業部門、人事部門にまたがって共有され始めている、というのが現状だと思います。

佐々木 日本の労働市場全体としては、雇用の流動性の低さという問題があります。人間は同じ環境に居続けると進歩が止まると指摘する人は多い。どんどん企業を跨いで人が動くようになって行く必要があるし、一つの企業に留まるとしてもさまざまな部署に移動したり、新しい経験をしたりというのが重要だと思います。大企業の社員は優秀な方が多いはず。そのポテンシャルが、一つの企業に留まることで活かせないというのは、やはりもったいないですよ。

光村 私を含めて、この佐々木さん、原田さんはほぼ同世代。僕と佐々木さんが1979年生まれで、原田さんが1977年生まれ。あと、全員が転職経験者。僕らの場合、「変わること」が普通だと思っている節はありますね。

佐々木 そうですね。この問題は、今後決定的な世代差が出てくる気がします。転職に抵抗感のない世代と、そうでない上の世代の方々。その価値観の相違は、さまざまなところで大きくなってくるのではないか、と。

原田 よく「若いやつらが辞めちゃってさ。堪え性ないよなー」みたいなことを聞きますが、堪え性という問題ではないんですよね。

佐々木 辞めてもどんどん入って来れば、それはそれでいいと思うんですよ。

イノベーションを起こすには「出島」と「出戻り人材」がカギ

光村 「人が大事」という認識が一致したところで聞いてみたい。「イノベーション人材」とはどういう人なのでしょうか。

原田 イノベーション人材というと「0→1を生み出す人」というイメージがあります。それはそれで正しいのですが、その人一人では成立しない。先ほども少し触れましたが、僕らがレンタル移籍を通じて育てたい人材は、「0→1を生み出す人」の周囲で一緒に踊り出せる人、背中を押せる人だったりします。「0→1」人材はセンスが必要かもしれないけど、二人目、三人目なら、後天的にいくらでも育てられると思っています。新しいアイデアを否定的、批判的に見るのではなく、「確かに、こういう可能性があるよね」と盛り上げてくれるような役割が、意外と足りていないのではないかと。

佐々木 経営共創基盤(IGPI)の塩野誠(マネージングディレクター・パートナー)さんが指摘していたのは「今後、大企業で求められるのは、事業を作れる人材だ」ということ。0→1の領域だったり、既存本業の範疇だったり、いろんな形がありえるのでしょう。前提となる課題認識として、高度成長期以降、大企業は「出来上がったルールの上でうまく適応する」ということをやり続けてきた。さらに言えばバブル崩壊以降は、大企業はずっと退却戦をしてきたわけです。なので「事業を作る」という経験をしたことのある人が、これは環境の問題なので誰が悪いという話ではなく、ほとんどいない状況になっている。ですので、事業を作る人を育てようとすると、社内に参考になる人はいないので、外へ求めていくしかないのかもしれません。

光村 昔は社内の先輩の背中を見て、という育ち方ができましたけどね。

佐々木 前提となるルールが変わってきているので、海外企業やベンチャー企業と連携して「攻め」の人材育成を行いつつも、外部からも人材調達する、というのが最適なバランスになるのではないでしょうか。

社会にインパクトをもたらすのは大企業orスタートアップ?

光村 佐々木さんの場合、東洋経済新報社という伝統ある出版社からベンチャーに参画されましたけど、大企業で求められるイノベーション人材と、ベンチャーで活躍する人材には違いがあるのでしょうか?

佐々木 似た部分も違う部分もあります。初期のベンチャーはやはり0→1ができる人。けれども立ち上げ時にいる人の多くは、0→1ができても、1→10とか10→100があまり得意ではない。私も含めて(笑)。大企業の新規事業として売上1000億円とかいうレベルに育てたいのだとすると、スタートアップとはまったく異なるアプローチが必要になってくる。

光村 ローンディールでベンチャー企業へレンタル移籍するような人の平均年齢はどれくらいですか?

原田 30歳ちょっとくらいです。移籍先としては、5名前後のベンチャー企業で、社長以外はエンジニア。そこに社長の右腕的なポジションで入るというケースが多いですね。そして2〜3ヵ月経つと、社長が攻めでレンタル移籍者が守りというような役割分担ができてきます。これはこれでワークしているんですが、レンタル移籍者が攻めになる、そんなキャラクターの方はほとんどいません。

光村 ベンチャー企業の社長よりも尖っていたり攻めの意識が強かったりという人材は、そもそも大企業には入社していない気がします。

原田 一方で、NTT西日本からランドスキップ(http://landskip.co.jp)というベンチャーへ出向している方がいるのですが、その方は大企業との提携を次々と決めている。「社内を通すには、こんな資料が必要」「こういう担当者と話をするべき」などと、大企業の意思決定プロセスをわかっているからなんです。そういった「大企業の作法」がベンチャーには必要なことも多々あるなと感じます。

佐々木 ある種、「ベンチャー業界でぐるぐる人材が巡回してる」という現状があるんですが、それだとあまり進化がない。そこに大企業の方が入ってきて、最初は苦労するかもしれないけど、結果を出していく。そうやって人材市場がシームレスになっていけば、長い目で見れば大企業もベンチャーも強くなっていくのではないかと思います。

30年後の大企業はどんな姿になっているのだろうか。

光村 最後の質問です。「30年後の大企業はどうなっているか」。なぜ30年後かというと、僕らがだいたい70歳を迎えるころなんですね。人生100年時代という意見もあるけれど、現行の制度を前提にすれば、リタイアが現実的になっているころです。そのころ大企業はどうなっているのか、という問題を自分ごととして考えてみたい。

佐々木 これも業種や企業によって大きく変わると思います。冒頭に言ったように、集積がモノを言う企業は、上手く時代に適応してけば30年後も反映しているでしょう。ただ、テクノロジーやITの領域だと、いまの有名企業でもなくなっている可能性はあると思います。
先日、IGPIの富山和彦さんが「パナソニックやソニーもいまの利益水準では生き残れない」と話していました。パナソニックやソニーが戦っている相手はシリコンバレーのIT企業で、研究開発費でそれこそ10倍も開きがあります。そうした世界最先端の舞台で戦う企業は、競争の熾烈さが桁違いです。ですので、どの分野のプレイヤーで、競争相手がだれかによって、答えは変わってきますね。

原田 個人的には、事業規模の小さい組織の集まりになっていくんじゃないかという予感があります。いきなり何千億という規模の事業が生まれる余地は、どんどん少なくなっていく。10〜20億円規模の事業を大量に持ってポートフォリオを組んでいくというのが現実的なのではないか、と。

佐々木 大企業はプラットフォームのようになっていくかもしれませんね。ベンチャーを買収したり、大企業のブランドを活かして大きくしたり、……さまざまな役割があると思います。

光村 そういう意味では、最近ソフトバンクがやっているように、M&Aや投資を行って、ポートフォリオを組み替えているのは、一つのモデルケースになるのかもしれませんね。まだまだ話は尽きませんが、そろそろ時間ということで。本日はありがとうございました。(編集:大矢幸世、写真:安井信介)取材日 2017年11月