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2017.06.13

Clipニホンバシから宇宙へ。アクセルスペースが掲げる「日本発」の誇り

ビジネスの創造・拡大を目指す人同士を結び、オープンイノベーションを実現する31VENTURES Clipニホンバシ(以下、「Clipニホンバシ」)は、2017年4月17日に移転オープンしました。1階はClipニホンバシのコワーキングスペースとセミナースペースとなりますが、その2、3階には超小型人工衛星の設計開発などを行う”宇宙ベンチャー”、株式会社アクセルスペースが入居しています。超小型人工衛星が製作できるオフィス環境を必要とするアクセルスペースが、Clipニホンバシを拠点に選んだのにはどんな理由があったのでしょうか。Clipニホンバシを企画・運営する三井不動産の定塚敏嗣を交え、代表取締役の中村友哉さんにその経緯を語ってもらいました。

・中村友哉 株式会社アクセルスペース 代表取締役
定塚敏嗣 三井不動産株式会社ベンチャー共創事業部 事業グループ 主事

難易度の高い「人工衛星を開発できる場所」の条件

アクセルスペースがClipニホンバシを拠点にした経緯をお教えいただけますか。

中村 僕らは2008年に東大の本郷キャンパスの近くで創業したのですが、すぐに手狭になって、柏の葉(千葉県柏市)にある「東葛テクノプラザ」という千葉県のインキュベーション施設に移転したんです。それで2009年に「TXアントレプレナーパートナーズ(TEP)を設立するので、ぜひ入会しませんか」とお誘いを受けまして、そこで三井不動産の松井さん(ベンチャー共創事業部 事業グループ長)と知り合いました。その後、2011年に神田小川町に移転したのですが、人が増えてきたので2015年くらいからそろそろ次の場所への移転を検討しないといけないな、と松井さんに相談していました。

定塚 そのご意向を受けて、弊社でも物件のご紹介をおこなったのですが、なかなかアクセルスペースさんの条件にかなうような物件が見つからなくて。

中村 我々、なかなか要求が多いもので(笑)衛星を組み立てるためにはクリーンルーム(防塵室)が必要で、衛星を吊るすのに、天井が高めでないといけません。そしてその衛星を運搬するために、エレベーターの間口も広くなければいけないんです。雑居ビルでは80〜90cmくらいの幅が一般的ですが、僕らの場合120cmは必要で……そういった諸条件を100%クリアするような物件なんてなかなかなくて、もしあったとしても賃料がすごく高くなってしまうんですよね。ですからいくつか候補をいただいたのですが、やっぱり厳しいかな、と考えていたら、「ゼロから作りましょうか」とご提案いただいて。

定塚 中村さんとは昔からの付き合いもありますし、なんとかご要望にお応えしたいという思いがありました。この場所はもともと自社所有地で、駐車場(リパーク)事業を行っていたんです。けれども「コレド室町」が誕生し、オフィスワーカーだけでなくショッピングを楽しむお客様も増えてきた中で、このまま駐車場にしておくのはもったいないのではないかという声も出てきました。当社にとっても特別な、日本橋というエリアで、さまざまな人が集まる場所を作って、街としての深みを出していきたい。そしてそこに、日本から宇宙へ衛星を送り出している注目のベンチャー企業であるアクセルスペースさんをお迎えする形で、街に新しい風を吹き込むシンボルになっていただけたら、と考えたのです。

日本らしさが感じられる街のシンボルに

実際に入居されてみて、いかがですか。

中村 やはり、スタートアップらしいオフィスになったなぁ、というのが正直な感想ですね。以前のオフィスでは社員が増える毎に少しずつフロアを借り増ししていって、あまりお金をかけられなかったのもあって、どうも作業場感が拭えませんでした。今回、実は内装の半分くらいは当社の社員が設計をさせていただいたんです。オフィスを作るにあたって、さまざまな要望が出てきまして(笑)思い通りのオフィスを作れたということもあって、社員の満足度も高いですし、それによって社員たちの仕事に対するモチベーションも高く保たれている印象です。

定塚 社員の皆さんが新オフィスにかける熱意は、設計打ち合わせ時からひしひしと感じておりました。通常なら、弊社から設計デザインをご提案し、「こんな感じがいい」「他のパターンは?」などとざっくりとしたやり取りを重ねていきながら詳細を詰めていくわけですが、今回はまず、ご担当の方がCAD(設計ソフト)で図面を書いてこられたんですよ。「ここに使う照明の品番は〇〇」「ここのフローリングは無垢材」などと綿密に指定されていて。私どもからは、アクセルスペースさんが想定するコストに収まるか否かを確認させていただいたくらいで、通常では考えられないスピード感で詳細が固まっていきました。

中村 当社のフランス人のエンジニアが、特に建築やオフィスデザインに興味があって、「自分たちが働きやすい環境を実現したい」という思いが非常に強かったんです。

「オフィスに無垢材を使う」というのも目新しいアイデアですね。

中村 普通ならフロアマットやカーペットですもんね。なんか、「汚れてもそれが味になる」と本人はこだわって。打ち合わせスペースには畳の部屋もあって、クリーンルームも外側から作業の様子が見られるようになっています。定塚 建物の外観も、私どものイメージでは当初、アメリカの西海岸とかシリコンバレーにありそうな、ポップな色づかいはどうだろう、という意見があったのですが、アクセルスペースさんから「あくまで我々は日本発のベンチャー。アメリカの焼き直しではなく、日本の価値観を反映してほしい」と強いリクエストをいただきまして。外壁には墨が混じったような質感のある黒の外装材を用い、差し色として浮世絵で用いられた日本古来の色彩を取り入れました。結果として歴史ある日本橋エリアのイメージと調和するような、日本らしさが感じられる建物になったと思います。

中村 当社には外国人社員が何人かいるのですが、やはり「日本が好きだから日本で働いている」という者が多くて、今我々が使っているコーポレートロゴも、もともとは青色だったんです。「宇宙だから青」というのはわりと想像の範囲内じゃないですか(笑)2017年にデザインを一新するにあたって、「情熱の燃える赤、日の丸の赤がいい」と赤を推したのは、外国人社員でした。

さまざまな出会いが新たなアイデアを生む

Clipニホンバシはコワーキングスペースとして、さまざまな方が訪れていますが、アクセルスペースとして相乗効果を感じられている点はありますか。

中村 移転前から時々イベントに参加させていただいていましたが、さまざまな企業の方とお話しすることで新たなアイデアが生まれたり、直接会わないとわからないニーズを得られたりして、とても可能性を感じています。こちらに入居してからまだ2カ月ですが、ゆくゆくは当社主催でセミナースペースを使って何かできればいいなと思っています。

定塚 Clipニホンバシの面白いところは、一般的なコワーキングスペースのようにフリーランスやベンチャーの方が多く集まるだけでなく、大企業の新規事業領域に携わる方も多いんですよね。大企業に勤める社員の多くが停滞感を抱えながら、なかなかイノベーションを起こせずにいる現状に対して、社外のさまざまな人と出会い、共創して新たな事業を作っていけるようなサポート体制をこれまで築いてきました。今後もそういった方々の課題意識や興味関心に刺さるようなイベントを開催していきたいですし、ベンチャー企業と大企業のマッチングの機会を作っていきたいと思います。1階にあって移転前よりも視認性が高くなりましたし、今までよりも施設規模も大きくなりましたから、それぞれの取り組みを加速化できるのではないかと考えています。

1階の一角に店舗があって、より多くの方が立ち寄りやすくなりましたよね。

定塚 併設している「EJ JUICE & COFFEE」さんもいわばベンチャー企業なのですが、農家さんから適正値で仕入れた規格外農産物を使って、栄養豊富なコールドプレスジュースを通常よりもリーズナブルに提供しているんです。日々忙しく働くワーカーを健康面から支えたいという企業理念にも共鳴するところが多く、今回ご入居いただく運びとなりました。

外から見るとアクセルスペースのロゴが入っていて、まさに象徴的なシンボルとなっています。

中村 「自社ビルですか? すごいですね」と言われることが多いです(笑)。胸を張って「ぜひ当社にお越しください」と言えるようなオフィスになりました。やはり、「東京の真ん中で衛星を作る」というのは、我々にとっても大きなモチベーションになっていて、誇りを持って仕事ができています。今年中に衛星3基を打ち上げる予定ですから、秋頃には衛星がズラっと並んだ状態になるかと思います。

定塚 ここから生まれたものが、宇宙へ飛び立つんですよね……。未だになんだか、信じられないんですよ(笑)クリーンルームに置かれている衛星を見ると、「あぁ、これが宇宙へ行くのか」と感慨深くなって。

今年の秋以降、空を見上げたら、東京・日本橋発の衛星が飛び交っていくことになるんですね! とてもワクワクします。本日はありがとうございました。

(執筆:大矢幸世)取材日 2017年05月