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COLUMN
2016.02.01

ファンド設立により新たなステージに突入した、三井不動産のベンチャー共創事業

今回の31VENTURES STORYでは当ファンドのパートナーであるグローバル・ブレイン代表の百合本安彦氏とベンチャー共創事業部長の菅原晶に、ベンチャー企業との共創に向けた新たな挑戦であるファンド設立の背景から今後のベンチャー共創事業について語っていただきました。資金投資だけにとどまらない、31VENTURESとグローバル・ブレインのオープンイノベーションによる新しいベンチャー企業との共創に向けた取り組みをご紹介します。

・百合本 安彦 グローバル・ブレイン株式会社 代表取締役社長。富士銀行(現みずほ銀行)、シティバンク、エヌ・エイ企画担当バイスプレジデントを経て、1998年にグローバル・ブレイン株式会社を設立。ネットバブル、リーマンショックを乗り越えて日本を代表するベンチャーキャピタル(以下、「VC」)を育ててきた経営者としてのキャリアを活かし、ベンチャー企業経営者の良きアドバイザーになっている。

・菅原 晶 三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部長。オフィスビルの本部にて用地取得、再開発、テナントリーシング、不動産証券化、J-REIT立ち上げ、M&A等幅広い業務を担当。その他にも様々な領域の業務を経て2015年4月新設ベンチャー共創事業部長に着任。ベンチャー企業との“共創”を通じた三井不動産の本業の強化と事業領域の拡大を模索。一緒に汗をかき、事業を「共に創る」深いリレーションによるビジネス支援に注力している。

三井グループのDNAが、ベンチャー共創による革新を志向する

三井不動産はなぜベンチャー共創事業に力を入れるのでしょうか。

菅原 新産業の創造による本業の強化、そして事業領域の拡大が目的です。当社が新たな価値を創造していくためには、革新的な技術、サービスを持つベンチャー企業との共創が必要です。そのために31VENTURESではこれまで、オフィスを中心にベンチャー共創の取り組みを進めてきました。幕張(千葉県千葉市)の『ワールドビジネスガーデン』内には、1990年代からベンチャー企業向けのオフィスをご提供。また、柏の葉(千葉県柏市)の『KOIL』、霞が関ビルの『LIAISON-STAGE霞が関』を設置し、日本橋では、コワーキングスペースと交流スペースを併設した『Clipニホンバシ』が多彩な活動を続けています。これまでも多種多様なベンチャーオフィス運営の経験から、ベンチャー企業との共創におけるノウハウを蓄積してきました。

百合本 KOILの先駆的なコンセプト、活動は興味深く見てきており、三井不動産はベンチャーと積極的に関わっていこうとする企業だな、という認識がありました。オフィス以外の施策を見ても、ベンチャー企業にやさしい目線があると思っていました。

ベンチャー共創はオフィス以外にも拡大しています。

菅原 ベンチャー企業が本当に必要としているサポートとは一体何なのか?これまでのベンチャーオフィス運営の経験からこれからのベンチャー共創について私たちは徹底的にリサーチ~ディスカッションを行いました。新しい価値創造のためにはベンチャー企業を中心に大企業、生活者等、多彩な人々が集まる創造的な「コミュニティ」の形成と、中長期的で実効性の高いハンズオン「支援」、スピーディな「資金」が必要になると考えました。
これまでも三井不動産からの直接投資の実績はありましたが、ベンチャー企業のニーズに即した機動的な資金提供の仕組みを構築するために「31VENTURES Global Innovation Fund」を設立いたしました。これまでにベンチャー企業への投資および支援実績を豊富に有するグローバル・ブレイン社との強固なパートナーシップにより、機動力のあふれる資金提供体制が整えました。ベンチャー企業のニーズを満たす、ワンストップの支援体制が構築できたと考えております。

三井不動産×グローバル・ブレインのオープンイノベーションがもたらすもの

なぜファンドのパートナーにグローバル・ブレイン社を選ばれたのでしょうか。

菅原 ファンドの検討にあたって、「当社だけでCVCファンドを立ち上げる」という選択肢もありましたが、ベンチャー投資に関しての経験は十分ではありません。そこで出会ったのが、グローバル・ブレイン社です。グローバル・ブレイン社には堅実な投資スタンス、豊富な実績もあります。年間2,600件以上の投資を検討するという幅広い知見には大きなポテンシャルを感じましたし、ハンズオンで手厚くベンチャー企業を育てていくサポート体制が31VENTURESの目指すベンチャー共創ととても合致していると思いました。また百合本社長の落ち着いたお人柄にも惹かれ、パートナーとして歩みを共にすることを決意しました。

百合本 三井不動産のこれまでの実績を拝見すると、もともと進取の気性に富んだDNAをお持ちの企業ですから、私たちが今回のプロジェクトにも共鳴するところが多いのも当然のことです。ごく自然にパートナーにならせていただきました。

特にどういう点で共鳴したのでしょうか?

百合本 私たちグローバル・ブレインはただ投資をするだけではなく、ベンチャー企業の側で、経営者の目線に立つ。こうして二人三脚で成長を支援してきました。いわゆる「ハンズオン支援」です。

ベンチャー企業と深いリレーションを持ち、共に高みを目指していく姿勢は三井不動産と同じです。本ファンドでも、その変わらぬ姿勢で共に汗をかき、ベンチャー企業との共創を進めていければと考えております。

菅原 海外支援拠点をお持ちなのも見逃せないファクターです。海外ベンチャーの動向が得られる点も、すごく頼りにしています。

百合本 そうですね。シリコンバレー、ソウル、シンガポールに拠点を持ち、ヨーロッパへの展開も準備しております。海外連携に強みを持つ私たちがメリットを還元できればと思いますが、日本進出を考えている海外の企業にとっても、このファンドは朗報になるはずです。国内はもちろん韓国、東南アジアでは相当アピールできるのではないでしょうか。日本の市場に入りたがっていても、障壁を感じているベンチャー企業は多くあります。海外企業へ日本進出の風通しを良くするためにも、このファンドは大きな意義があるのです。

2社のパートナーシップがもたらす強みとは?

百合本 近年、ベンチャー企業を巡る投資ではオープンイノベーションというキーワードが不可欠ですが、オープンイノベーションはまさに31VENTURESが掲げる“共創”です。三井不動産のステートメント・ビジョン・ミッションの中にも、まさにオープンイノベーションそのものを指す一節「多様な「知」をとりいれ融合させることにより、国内外で新たな価値を創造」がありますね。
デベロッパーである三井不動産がベンチャー企業との“共創”を掲げて投資を行っていく。これはCVCのシーンで大きなインパクトをもたらします。私たちグローバル・ブレインもベンチャー企業とオープンイノベーションを進め、共創で新しいものを産み出してきました。三井不動産のアセットとグローバル・ブレインの強みが合わさることによるコラボレーションには大きな期待を持っています。

菅原 今回のファンド設立によって「コミュニティ」「支援」「資金」の3本柱の強化を実現することができました。特に当社のアセットではtoC、toB事業によって培ってきた膨大な顧客層もバックグラウンドにあります。私たちが手がけてきたオフィス、商業施設の約5,000社のテナントを結ぶネットワークをベンチャー支援の「場」として活用させていただく――つまり、5,000社とベンチャー企業とをビジネスでマッチングする取り組みも進めてまいります。

百合本 菅原さんがおっしゃった「5,000社におよぶ顧客ネットワーク」もありますし、「リアルな場を持っていること」の強みも見逃せません。KOILやClipニホンバシなどのスペースはもちろん、商業施設、ホテル、住宅等あらゆる領域でビジネス展開を考えられることは、ベンチャー企業にとってすごく大きなメリットになります。
さらに大きな魅力として、機動力のある資金提供です。事業会社が進める投資では役員会の承認など、いくつかのプロセスが必要で、どうしても時間を要してしまいます。しかし、現代の新事業共創にはスピードが不可欠です。 当ファンドでは投資プロセスも短縮するので、相当に高い評価をされるのではないでしょうか。

今回のファンドは多業種のベンチャー企業を支援できるのも大きな特徴ですね?

菅原 本業である不動産は幅広い領域で事業を展開していますので、投資対象のセクターをあまり選びません。今後大きな成長が見込まれるIoT、eコマースおよびフィンテック、ロボティクス、ライフサイエンス、シェアリングエコノミーをはじめ、当社と親和性が高い不動産、セキュリティ、環境およびエネルギーなどですが、細かく業種、業界を限定しないことが、本ファンドの可能性をさらに広げていくのではないでしょうか。

百合本 領域の広さは、対象となるベンチャー企業の母数の拡大につながります。オープンイノベーションへの期待が膨らむ点で、ファンドとベンチャー企業の双方にとって大きな魅力になります。私たちグローバル・ブレインが本プロジェクトに投入するスタッフは様々な業界をバックグラウンドに持っておりますから、ハンズオン支援が可能です。31VENTURESでは、特にどんな領域に興味をお持ちでしょうか。

菅原 不動産とはまったく別の領域に期待しています。たとえば、私ども三井不動産の本拠地は日本橋です。このエリアには、昔から製薬会社が集積しています。現在、ライフサイエンス、という切り口で街の付加価値を高めていこうという取り組みもあります。これはあくまで一例ですが、ライフサイエンス系のベンチャーを支援できるのであれば、日本橋という街の活性化にもつながりますし、私たちが手がける住宅、オフィスで働く方々の健康支援にもつなげられるでしょう。

百合本 ヘルスケアは私たちも注目し、関心を注いでいる事業領域ですね。菅原さんが言及されたように、本拠地である日本橋、そして本業である不動産との掛け合わせによって新しいビジネスの可能性はどんどん広がります。CVCは、もともと事業会社と他業種をブリッジするためのもの。多彩な業界、業種を起点にすると、大きな可能性が広がりそうです。

これからのベンチャー共創をパートナーと共に考えていく

海外のベンチャー企業の躍進が話題になることが多いですが、日本のベンチャー企業がグローバルで活躍するために欠けているものは何でしょうか?

百合本 資金供給力の少なさを指摘する方もいますが、私は人の問題だと考えています。日本の起業家は考えが小ぢんまりとし、ドメスティックに考えがちなところもあります。

それが韓国、シリコンバレーではどうでしょう。起業の時点で「世界を舞台にどう戦うか」を真剣に考える起業家が目立ちます。彼らとの違いが教育にあるのか、環境にあるのか、それは分かりませんが、起業家のマインドが変わらなければ、日本のベンチャー企業全体のクオリティはどうしても落ちてしまう。ひいては、エコシステムも好循環はしていかないでしょう。

しかし、期待もあります。日本でもグローバルな視点で考えるベンチャー企業、単身で海外に渡る起業家も少しずつ増えてきました。まだまだ日本も捨てたものではありません。今回のファンドで、日本から海外に出て戦えるベンチャーを支援していきたいですね。

菅原 本ファンドには、グローバル・ブレイン社から3人の専任スタッフを置いていただきました。それぞれ人工知能など今注目される高次の専門領域をお持ちであり、当社のために動いていただけることを心強く感じています。

目指しているベンチャー企業との共創とは?

百合本 私たちがベンチャー企業との共創において重視しているのはサポートのスパンです。ベンチャー企業の支援は中長期的な視点で考え、進めていくべきもの。種を撒いて、5~7年で新しい事業を創出していく、というのが私たちのスタンスです。三井不動産は中長期的な視点で事業展開をされている会社ですので、その点も志は同じです。投資決断はスピーディーに進めつつ、長い視点でプロジェクトを進めさせていただければと思います。

菅原 そうですね。私どもが手がけてきた大規模な再開発もロングスパンで進めてきたものが多くあります。中には20年単位のサイクルもあります。ベンチャー企業が成長していく時間軸に合わせて、育成支援を進めていければと思います。

百合本 さらに言えば、アーリーステージの支援にはリスクもつきものです。私たちは年間約2,600社の投資案件を検討しますが、実際に投資に至るのは40社程度、2%弱といったところですね。そこまで厳選し、さらにハンズオン支援を地道に続けてきました。
今回のファンドもそうです。投資しっぱなしにするのではなく、三井不動産のアセットと我々のノウハウを生かし、成功の確率をさらに上げていくことを目指します。

菅原 おっしゃる通りですね。すべてが成功するということはあり得ない世界です。ハンズオン支援はグローバル・ブレイン社の知見を仰ぎつつ、私たちが得意とする環境づくりでベンチャー企業をバックアップしていく体制を作りたいと思っています。

コワーキングスペースやオフィスを整備していく「場」の整備に加え、「ベンチャー企業どうしのコミュニケーション、コミュニティづくり」も視野に入ります。たとえばClipニホンバシでは毎週イベントを開催しており、起業家やベンチャー企業の熱が感じられます。グローバル・ブレイン社がある渋谷を見て思いますが、ベンチャー企業がいる街は活気に満ちているものです。私たちの本拠である日本橋にも意気盛んなベンチャー企業、起業家を呼びこみ、さらなる街の活性化に一役買っていきたいと思います。そして百合本社長をはじめスタッフの皆さん、そして私たちベンチャー共創事業部が一体になり、チームとして本ファンドに取り組んでいきます。この活動を通じて、日本の新産業の創生、日本の持続的成長に寄与したいと考えています。

取材日 2016年02月