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COLUMN
2015.10.01

KOIL オープンイノベーションを誘発する空間とコミュニケーションのデザイン

31 VENTURES」参加企業の熱いストーリーを紹介する「MEET THE 31 VENTURES」。
柏の葉オープンイノベーションラボ(以下、KOIL)は2014年4月のスタートから1年半を経て、 JID AWARD2015大賞、グッドデザイン賞を相次いで受賞。 オープンで先進的なデザインが高く評価されています。 そこで今回は、KOILの立ち上げに携わった3人にお集まりいただき、人と人とをつなげる まったく新しいコワーキングスペースの魅力、ポテンシャルを存分に語っていただきました。

・諏訪 光洋 株式会社ロフトワーク代表取締役社長。1971年米国サンディエゴ生まれ。慶応大学総合政策学部を卒業後、FMラジオ局InterFMのクリエイティブディレクター、アメリカでのデザイナー活動などを経て、2000年にロフトワークを設立。クリエイティブの新しい形の流通を目指し、コミュニティデザイン、空間デザインなどのプロジェクトを手がける。

・成瀬 友梨 建築家。2007年に成瀬・猪熊建築設計事務所を共同設立。2009年より東京大学助教。代表作に『LT城西』『りくカフェ』など。主な受賞に2015年日本建築学会作品選集新人賞、JID AWARD 2015大賞、2014年 Best of Asia Pacific Design Awards Winning Projects 最優秀賞。

・弘瀬 愛加 三井不動産 ベンチャー共創事業部 主事。賃貸マンション事業、広報部(コーポレートブランディング)を経て柏の葉まちづくり推進部。「KOIL」の立ち上げ・企画運営を担当し、諏訪氏、成瀬氏らと共にプロジェクトを推進した。2015年4月から「ベンチャー共創事業部」に着任し、これまでの経験を生かしてベンチャー企業を支援している。

“アイデアを形にできる”空間づくりの秘密とは

日本インテリアデザイナー協会の「JID AWARD2015大賞」に加えて、グッドデザイン賞でもKOILの空間づくり、可能性が評価されました。

成瀬 「JID AWARD2015」はインテリア関連のアワードですが、余白のある建築デザインが評価されたのは光栄ですね。

諏訪 表層的なデザインだけではなく、ユーザー体験や機能からKOILは考えられています。日本国内でも初めて本格的な“イノベーションセンター”をつくる試みにおいてユーザー体験の本質的な部分をつくれたと思います。時間に淘汰されない点が評価されたんでしょうね。

弘瀬 企業やスタートアップだけではなく、学生や地域の住民の皆さんにもオープンな場所を目指しており、プロジェクトの当初から、いわゆる“オフィス”というイメージから脱却した空間を話し合ってきましたね。

KOILは普通のオフィスにはない大胆な空間づくりですが、どのようにこの空間設計のアイデアが生まれたのでしょうか。

諏訪 ペルソナデザインやユーザーシナリオなどUX(ユーザーエクスペリエンス)を通して、インフォーマルなコミュニケーションがどうやって生まれるのかをこのチーム全員で考えてきました。空間の基本的な構成は、ナルクマ(猪熊成瀬建築事務所)が出してきたアイデアがそのまま最後まで活かされています。会員でなくても 入れるパブリックな空間が50%以上を占めています。起業家から地域の皆さんまで、職種や立場を超えた多様な人々が出会い、交流する場という基本姿勢が生かされたレイアウトです。

弘瀬 KOILファクトリーをフロアのセンターに置く。これも当初からあったアイデアでしたね。工作機械がある工房をガラス張りにして周囲から見えるようにしたことで、KOILを訪れる人の見学ポイントとなっています。

成瀬 普通、このような工房は裏の見えないスペースにあるものですが、モノが作られる・生まれるところを誰もが見える場所に置きたかったんです。エントランスを入ってすぐにあるKOILファクトリーをきっかけにKOILに興味を持ってもらえたらと思っています。

天井にはダクトがむき出しになっていて、壁もラフな石膏ボードです。かなり冒険的な設計に思えますが?

成瀬 確かに、壁はかなり冒険しています(笑)。普通はプラスターボードの上に塗装をするんですが、あえてそのままで、“仕上がった感”を出さないようにしているんです。余白を持たせ、これからまだまだ変わっていくことを予感させる仕上げにしています。

弘瀬 当初、見学に来た社員から、「この壁はこれから塗るんだよね?」と聞かれたこともあります(笑)。従来の弊社では考えられない新しい試みは、社内でも反響がありました。

企業や個人が垣根を越えて交流していくことで、イノベーションを創り出す。KOILにはそんな期待が集まっています。コワーキングスペース「KOILパーク」の設計、オープンな発想を生む空間づくりのポイントを教えてください。

成瀬 家具はデザイン、高さ、大きさに多様性を持たせていますが、何よりフレキシブルさを意識しました。利用スタイルのダイナミックな変更にも対応できるよう、全てのテーブルにキャスターをつけています。

諏訪 働く場のコミュニケーションにおいて「高さ」は大切な要素です。例えばハイスツールに並んで座っているとPCの画面を共有したり、ホワイトボードでのアイデア出しがより自然にできます。距離が近いのです。立っていればもっと人の距離は近くなります。一方低いソファーだと距離は遠くなりますが、リラックスして1日でも共同で作業ができます。KOILパークは約170席の仕様ですが、ゾーニングをきわめてゆるやかにして、増減も自在にしています。

成瀬 机の高さについては結構議論しましたね。エントランスに近いほうに高めのテーブルを置いて、奥にいくにしたがって低めの家具を配し、集中して仕事できるように設計しました。会員の皆さんは、意図通りに、あるいは意図を超えて自由に使ってくださっています。

弘瀬 違う席に座るだけで雰囲気、モードが変わるというのは会員のみなさんに感じていただけているかと思います。短時間で集中して仕事をするならカウンター席に座る。落ちついてゆったり仕事をするならデスク。その時の気分やニーズに合わせたワークスタイルをサポートしています。

形も色も多様な家具は彩りと楽しさを与えてくれます。この遊び、冗長性から、他の会員とのコンタクトポイントも多く発生しそうです。

成瀬 対話、コミュニケーションが自然に生まれる場所。そんなイメージを諏訪さん、弘瀬さんからいただいていたので、動線計画はとても大切だと考えていました。だれでも入れる回廊をフロアの奥までぐるっと回したのはそのためです。それに加えて、空間の雰囲気づくりも大切にしました。カッチリしすぎた空間ではなかなか会話もしづらいですからね。インフォーマル(形式ばらない)なコミュニケーションをいかに増やせるか――最初の設計段階から考えていたことです。

諏訪 インフォーマルなコミュニケーション、セレンデピティをどうやって生むのか。KOILは単なるコワーキングスペースではなく、新しいアイデア、新しいビジネスが生まれる場を目指しています。ひとりで来てもくもくと仕事をするだけではなく、アイデアをぶつける出会いが生まれる空間がKOILです。運営においてもイノベーションを誘発するセミナー、体験型ワークショップなど、空間を活用したイベントも多数開催されています。

「オープンイノベーション」を共通言語に

スクリーン、映像・音響の各種設備が整った「KOILスタジオ」もよくイベントが行われていますね。

弘瀬 そうですね。「KOILスタジオ」はビジネス交流の場として、そして世界から人が集まるカンファレンスやイベントなどにご利用いただいています。

成瀬 KOILスタジオの設計後に一番驚いたのは、可動型のステージをいろいろな形でご利用いただけていることです。もともと、ロフトワークさんからのオーダーは「可変性のある設計」というものでした。使い手の皆さんは、その特徴を最大限に生かしてくれているのが、すごくうれしいです。

諏訪 ロフトワークは先日ある大企業から、役員のためのイノベーションに向けた勉強会の開催を 相談されました。担当の方はホテルのエグゼクティブフロアでの勉強会を想定していたのですが、我々はKOILを提案し、下見の結果「ぜひここで」ということでKOILでの開催、しかもクローズドではなくオープンな形での役員の方々も含めたワークショップとなりました。都心のホテルと比較し時間はかかります。忙しい役員の方々にとって貴重な時間です。それでも「ここで行う価値がある」と認められたのは空間の力だと思います。

弘瀬 「KOILスタジオ」だけでなく、会議室についても同じです。いろいろな大きさの部屋がありますが、偉い人を中心に囲むような通常の会議室ではなく、例えば楕円のテーブルで参加者がフラットに話し合えるレイアウトなど部屋ごとにこだわった会議室を作りました。カフェのようなハイテーブルで気軽に打ち合わせができる部屋も用意しているんですよ。

諏訪 もちろん、従来からあるホテル・エグゼクティブフロアでの勉強会を否定するわけではありません。そのようなスタイルが必要な時もあるでしょう。しかし、オープンかつフラットな話し合いのための大規模なスペースはそれほど多くありません。KOILには、イノベーションを起こしやすい空間として新たな可能性があると思っています。

オープンイノベーション”の発想がどのように話し合われ、KOILに取り入れられていったかを教えてください。

諏訪 もともと三井不動産さんは「イノベーションが生まれる場」「起業が生まれる場」を真剣に考えられ、MIT Media Labの伊藤穰一氏を通してこのプロジェクトの相談をされました。ロフトワークは“オープン”、“ユーザー体験”がキーワードのクリエイティブエージェンシーです。自社で運営しているデジタルものづくりカフェ「FabCafe」の実践を通して蓄積した”場”と”サービス”の連動による、コミュニティの拡大と活性化を大きく拡大したのがKOILです。三井不動産というエンタープライズな企業にここまで踏み込んでいただき、認めていただいたことに感謝しています。振り返ってみると、今回のプロジェクトそのものが、「イノベーションを生む」体験の共有でしたね。

弘瀬 プロジェクト関係者みんなで同じ空間、建築を見て感想を交わし合う。共通認識、共通言語を作っていく合宿も京都、大阪で行いましたね。

諏訪 大阪でグランフロントを見て、京都では現代美術家・名和晃平さんのアトリエに伺ったり、ワークショップを行うなど様々なプロセスを経ての意識合わせを大事に行ってきました。合宿を含めチーム全員でのコンセンサスづくり、サービス設計がその後のプロジェクトでのクオリティにつながっていると思います。

成瀬 私たちの世代の建築家は、自分の考えだけを押し通すのではなく、意見を交換しながら良いものを作っていく、という考えの人たちが多いと思っています。例えば打ち合わせの場で、同じ言葉を使っていても違うイメージを抱いているということはよくありますが、合宿などのコミュニケーションを通して共通言語ができたことで、すごく話しやすくなりました。これが、スピードアップにもつながったんじゃないかと思います。

「共創」を生み出す場として、KOILはさらに進化していく

企業、起業家、自治体、コミュニティが有機的に結合し、共創していくための環境が整っていることが分かりました。オープンから1年半が経った今、KOILはどのように進化しているのでしょうか。

弘瀬 これまでお話してきたように、KOILには実験的な要素がたくさんあり、使われながら日々進化していくスペースだと考えています。専有個室オフィスにご入居いただいている方も、KOILパークで他の会員さんと活発に交流されているようです。職住近接で近くにお住まいの方の利用も多く、地域コミュニティの核として機能し始めています。

諏訪 世界的にも企業は企業の研究室を飛び出しリアルなユーザーや消費者と接点をつくる方向にあります。柏の葉に来ると東京都心とも少し違う数年、10年先の日本の社会と消費者を感じられるはずです。

弘瀬 会員同士のつながりによる協業も生まれています。KOILパーク内に「ビジネスマッチングボード」という仕組みも作っていますし、ビジネスミーティングなどを通じた交流も盛んです。会員同士のコラボによる「柏の葉図書館プロジェクト」はいろいろなところで紹介されていますが、これはまったく自発的な取り組み。私たちにとっても想定外の喜びでした。

成瀬 今、コワーキングスペースはいろいろなところにできていますよね。だけど、日常生活の延長として地域の居場所を兼ね、さらにイノベーションセンターの機能も持っている。これはKOILならではだと思います。

地元に住まう人たちの顔が見える郊外のメリットを生かしてKOILは進化しているのですね。

諏訪 オープンから1年半、これからさらに進化と成長が続くと思っています。協業のように大きなものだけではなく、小さなワークショップが当たり前のように催される。そんな自然な盛り上がりに期待しています。

弘瀬 KOILは単にオフィスではなく、イノベーションを創造するための場ですので、ハードだけを提供しているわけではないんです。諏訪さんがおっしゃったように交流を生み出す多彩なイベントも開催していますし、投資や経営助言を行うエンジェルや弁護士や会計士などの専門家ら合計約200人の会員を擁するTEP(TXアントレプレナーパートナーズ)の拠点もKOILにあり、会員さんへビジネス支援をしていただいています。これらソフトとハードをうまく融合させ、さらなる化学反応を起こしていくのが、私の所属するベンチャー共創事業部「31 VENTURES」の役割なのです。

では最後に、今後のKOILへの期待をそれぞれお聞かせください。

弘瀬 三井不動産の「31VENTURES」は創業支援や企業育成を後押ししています。前述の通り、スタートアップの支援には、「ハードとしての場を提供する」だけではなく、ソフト面でのバックアップも欠かせません。KOILは多様な立場の人、企業が交流し、イノベーションを起こす場として走り出しています。KOILで私たちが得られる知見、ノウハウは、今後のベンチャー支援全般に生かしていけるはずです。

成瀬 オープンからまだ1年半ですが、KOILはダイナミックに動き続け、進化しています。建築家として、作ったものが成長するのを見るのほど面白いことはありません。5年後にはどうなっているんでしょう?ドキドキしながら見続けていきたいですね。

諏訪 ちょっと前はオンラインですべてをこなすのが最上とされていましたが、人と人が出会い、リアルなコミュニケーションを行い、信頼関係を作ることの大切さと価値が大切になっています。イノベーションは新しい組み合わせから生まれます。KOILが生み出すインパクトと価値を楽しみにしていてください。

2020年のKOILがどんなかたちになっているのか、楽しみに見ていきたいですね。今日はどうもありがとうございました。

取材日 2015年10月