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2015.05.01

大手とベンチャーはそもそもの「言語」が違う。ときに否定し、ときに橋渡しをしながら相互理解を促していく、これまでにない新規事業開発の場所。

「31 VENTURES」参加企業の熱いストーリーを紹介する「MEET THE 31 VENTURES」。

第3回は、コワーキングスペース「Clipニホンバシ」の取り組みをご紹介します。
Clipニホンバシは大手企業の新規事業担当者に加えて、起業家、フリーランスで働くクリエイターやエンジニアなど、
さまざまな人たちが交流しコラボレーションを生みだしていく場。
立ち上げから運営に携わってきた三井不動産・ベンチャー共創事業部の光村圭一郎氏と、
Clipニホンバシのプライベート・コンサルとして会員をサポートする赤木優理氏、広瀬眞之介氏の3人にお話を伺いました。

・光村 圭一郎 三井不動産ベンチャー共創事業部。出版社勤務を経て2007年三井不動産入社。企業人・起業家・クリエイターのコラボ拠点「Clipニホンバシ」を立ち上げる。その他、スタートアップウィークエンド審査員、KDDI∞Laboメンター等を経験。
・赤木 優理 Clipニホンバシのプライベート・コンサルタント。StartUpの為のコワーキングOffice「StartUp44田(よしだ)寮」の寮長。2014年、会社員のための事業開発(起業体験)ができるワークショップ「チーム・ゼロイチ」を立ち上げる。
・広瀬 眞之介 Clipニホンバシのプライベート・コンサルタント。株式会社小石川の代表。事業創造コンサルタント/メンタルトレーナー。初代ネコワーキングを開設、うつ病サポート体感カードゲーム「ウツ会議」の制作など多数の事業開発をする。

Clipができるまで

皆さんはどういった形でClipニホンバシと関わっているのでしょうか。

光村 2013年にClipニホンバシのプロジェクトがスタートしたときから、プロジェクトリーダーを務めていました。現在は主担当を離れていますが、支援しているスタートアップ企業にClipを活用してもらい、成長のヒントをつかんでもらっています。また、一人の参加者として仕事をしたり、イベントに参加したりもしています。

広瀬 私はプライベート・コンサルと呼ばれるスタッフの一人です。ここには、新規事業を作るための知見を持った4人のプライベート・コンサルがいて、会員はPCたちに相談し放題という仕組みになっています。もともとは、同じくプライベート・コンサルの一人である赤木さんがここで開催していたイベントにゲストで呼んでもらったことがきっかけで、その後はユーザーとして使っていました。そのうちに「運営側に入らない?」と誘われて(笑)。4月から運営メンバーとして活動しています。

広瀬さんは主にどのような役割を担っているのですか?

広瀬 顧客のニーズを的確に把握するためのインタビューやヒアリング調査を得意としているので、そういった分野でコンサルティングを行っています。また、Clipを訪れた人に積極的に話しかけ、コミュニテイを活性化させる役割も担っています。Clipではこれを「ナンパ」と呼んでいます(笑)。

光村 Clipはただ仕事をするだけのコワーキングスペースではなく、ここにいる人同士が交流できることに大きな期待を寄せられています。「コラボレーションを生みだす場」と定義しているので、交流が始まらないことには意味がない。それを推進していくために、スタッフの一人として声掛けをしてもらっています。「ナンパ」というのは、そうした人と人をつなぐコネクター的な仕事ですね。

広瀬 訪れた会員に「うっす、こんにちは!」といった軽いノリで声をかけていき、いろいろ聞きだしていくんです。会話の量を重ねることでその人のClipに対する期待を知り、どんなことに悩んでいて、何を求めているかが分かってくるんですね。その理解がソリューションにつながっていきます。

光村 そういった役割はコラボレーションを生みだそうとする場には絶対に必要だと思うのですが、配置できていないところが多い。広瀬さんに4月から加わってもらい、その部分ですごく助かっていますね。

赤木さんはどのような形で関わっているのでしょうか?

赤木 立ち上げ当初から企画スタッフとして、施設全体の方向性の設計に関わっていました。今はプライベート・コンサルの役割も担っています。私はもともと起業家の研究をしていて、「起業家のビジネスの作り方」を体系化していました。それが転じて、「会社員が起業家と同様の体験をすることで、新規事業を生み出せるようになるのでは」と考えるようになり、そのためのプログラムを開発していたんです。そんなときにちょうど、三井不動産がClipを始めるという話を聞き、大手企業の新規事業担当者に実践すれば面白いコンテンツになるのでは? と思い参加することになりました。

光村 一緒にやり始めてから、もう2年になりますよね。

赤木 そうですね。

具体的にはどのような設計を行ったのでしょうか?

赤木 スケール戦略の策定とコンテンツ作りとですね。Clipは「場所」と同時に「仕組み」を重視していて、ソフトコンテンツに力を入れています。イベント企画の作りこみや、プライベート・コンサルの役割を定義するといったソフト部分の構築をしています。

光村 Clipは三井不動産にとっても一つの新規事業です。そのリーダーである私は、Clipを立ち上げるにあたって、多くの企業の新規事業担当者と同様に、さまざまな困難に直面したわけです。そんなときに赤木さんやその他のスタッフに意見をもらい、なんとか乗り越えて今に至っています。そのスタッフの力を会員の方にも活用していただき、実際に新規事業を作っていくサポートができればと思っています。

皆さんはどういった経緯で出会ったのですか?

皆さんはどういった形でClipニホンバシと関わっているのでしょうか。

光村 プライベート・コンサルの一人である近藤ナオの存在が大きいですね。

赤木 ナオは、「まちの保育園」や「シブヤ大学」の立ち上げに関わった人間なのですが、彼がもともと三井不動産と仕事をしていたんです。そこにClipを立ち上げるという話があり、興味を持った彼が初期メンバーを集めた。私も彼に呼ばれて参加しました。

光村 最初はいろいろな部門から集まった4人の三井不動産社員、4人の社外スタッフでプロジェクトチームを立ち上げ、今年4月からは広瀬さんなど数名の新しいスタッフにも加わってもらいました。最初はユーザーだったり、イベントの登壇者だったり、単に出入りをしていただけだったりといろいろな立場での関わりでしたね。そんな中から、チームとして一緒に働いてくれる人が増えてきました。

異なる立場から運営する仲間を集め、増やすというのは、難しそうに思うのですが。

光村 そうですね……。大手企業ではあまり例がないチームの組み立て方かもしれませんね。これまでだと、一つの会社に検討を依頼するというパターンが多かったと思います。あと、私はかなり運営に深くコミットするスタンスで臨みました。大手企業の新規事業担当者として、そのスタイルが正しいのかどうかはわかりませんが、いずれにせよ珍しいやり方だとは思います。

その経験が、大手企業の新規事業創出のモデルになったりもするのでしょうか?

光村 う~ん、どうでしょう。

広瀬 それはここの成果次第ですね(笑)

光村さんご自身も、ご苦労されたんですよね?

光村 それはもちろん(笑)。今もしています。話し出したらキリがないですね。まず会社の中でほとんど誰もやったことがない領域、方法論の仕事なので、自分で目標とルールを決めなくてはいけない。今は1年間やってきて、Clipのことを理解し、応援してくれる方も社内に増えましたが、まだ形になっていないものを説明してもイメージしにくいですよね。予算を確保し、実現させるのは簡単ではありませんでした。

赤木 光村さんも手探り状態で進めてきましたし、新規事業を担当するのは初めてでしたもんね。

光村 そうですね。自分もこれまでは既存のビジネスを安定速度で動かすことばかりをやってきました。こんな挑戦は、人生のなかでやったことがないわけです。それでもやらなければいけない。自分から飛び込んでいった世界とはいえしんどい部分はあったし、サポートなしには実現できませんでしたね。あ、でも「サポート」というのは少し違うかも?

ビジョンを固めるまでの苦しみ

赤木 どちらかというと「付き上げ」ですね(笑)。私たちの付き上げ。

光村 確かに(笑)。スタッフからこれだけ付き上げをくらうことはないでしょうね。

赤木 そもそも大手企業で新規事業がうまくいかないのは、上が「やれ」と言って、言われた現場の担当者が「やらされている」からなんですよ。そこにはビジョンがないんです。担当者に、「この新規事業をどうしていきたいか」という熱い思いがない。だから現場でも頭が働かないし、誰も付いて来ない。 最初は光村さんもそうだったんですよ。社内でビジネスアイデアコンテストがあって、Clipのようなことをやろうと話が決まった。自分で提出したプランではあるけれど、「やることは決まったから進めなきゃ」と。それで最初に話したときに「何をやりたいんですか?」と聞いたら、明確なビジョンがなかったんです。私たちのように会社の外から新規事業に関わってくる人間に、「ビジョンがない」と言い続けられる苦しみは大きかったと思うんですが、光村さんはここに集まる人たちや社内の人たちとの会話を重ねて、ビジョンを作り上げるというプロセスを重ねていった。私は客観的に見ていてそれが面白かったですね。

光村 「ここでやるべきこと」を見つけるまでは、3、4カ月ほどかかりましたよ。

赤木 それを見つけるまでが大変だったと思うんですよね。見つかればそれを通すだけだし、周りも付いてくるし。

光村 そのときに、私がやりたいことを会社が100パーセント理解してくれたかはわかりませんが、ただ「あいつが考えた結果としてここまで思っているんなら、やらせてみよう」と認めてもらえたようには思います。それはサラリーマンが新規事業を作るときにはとても大事なことだと思うんです。

光村さん自身がその経験をしたからこそ、ここに集まる人への理解も深いのではないでしょうか。

光村 そうですね。その経験は大きいですね。

要望に忠実ではないクリエイターの存在

皆さんが関わってきた中でイノベーションが進んだ事例は、どのようなものがあるのでしょうか?

赤木 「大手企業×ベンチャー支援企業」の事例では、タクシー最大手の日本交通さんと、ベンチャー支援を手掛けるトーマツベンチャーサポートさんが仕掛けた「ハイヤーピッチ」という事業があります。ベンチャー企業が大手企業の役員へ直接プレゼンする場として、ハイヤーの中の「遊休スペース」である役員の隣席を活用するという試みです。

広瀬 日本交通さんとしては、自社の事業に移動手段だけではない付加価値を持たせたいという狙いがあったんです。一方でトーマツベンチャーサポートさんは大企業とベンチャーのビジネスマッチング効率を高めたいという課題があった。大企業の役員に直接プレゼンできる場として「ハイヤー内という密室」を使うというアイデア、面白いですよね。

光村 両社の出会いの場は、Clipニホンバシの「イントレnight」というイベントでした。トーマツベンチャーサポートさんが登壇者で、日本交通さんがその参加者だったんです。「ベンチャーの担当者が直接プレゼンし、即決を得られるような場づくり」のアイデアとして日本交通さんから「ハイヤーピッチ」のアイデアが出た。これを元に、プライベート・コンサルを含めたブレストを重ねて事業が形になっていったんです。

文明堂東京さんのヒット商品「おやつカステラ」の開発にも、プライベート・コンサルの皆さんが関わっていると伺いました。

光村 最初は文明堂東京の方が、プライベート・コンサルの近藤ナオに個人的に相談していたんですよね。そこでプライベート・コンサルの価値を感じていただいて、Clipに入会していただきました。そんな中、文明堂東京さんで新しいカステラ商品を生み出す企画がスタートしたんです。 その企画とは、30代女性を中心ターゲットにし、カステラを小さなパッケージに小分けして売るというモノでした。社内提案書には、ただシンプルで可愛いデザインが並んでいました。それは、今、売れている他メーカーの小分けカステラと思われそうな物でした。 ご担当者からは最初は「デザイナーを紹介してほしい」という相談だったそうです。しかし近藤からは、「デザインだけでなく、商品のあり方から考える必要がある」というフィードバックをし、デザイナーよりも上流の商品コンセプトを検討するためにバイヤーの山田遊さんにもチームに加わってもらいました。

赤木 それまでは文明堂東京さんが社内で作ったコンセプトが優先され、クリエイターはそれに沿った提案をしてくれていたようですね。でも山田さんは違いました。文明堂東京さんはかなりびっくりされたようです。
そんな半年間にも及ぶやりとりの末に生まれた企画が、カステラを小さなパッケージに小分けして売るという当初の企画に加え、文明堂さんが有する企業キャラクターの価値を有効活用し、商品とミックスすることにより効果的に市場浸透させるというものでした。

その状況をどうやって乗り越えたのですか?

赤木 プライベート・コンサルの近藤が間に入り、「彼(山田さん)はクライアントと議論を繰り返してモノを作り上げるクリエイター。だからこそ力があるんだ」ということを文明堂東京さんに丁寧に伝え、橋渡しをしていったんです。お互いの理解を深めながら、文明堂東京さんの中にも「議論を重ねていくことでイノベーティブな仕事ができるんだ」という認識が広がっていったそうです。

相談し、否定され、叱られる

光村 今までと違うことをやろうとしたり、違ったタイプの人たちと付き合おうとすれば、そこには言語の違いが生じます。言語の違う者同士が集まったときに何が起こるかというと、すれ違ってしまうか、力を持っているほうがゴリ押しするか、という展開になる。しかし、そんなやり方では新しい事業は生まれない。これが、大企業の新規事業開発が上手くいかない理由の一つだと思うんです。
だから私自身も「赤木さん、俺の言うこと聞けよ」とは絶対に言わない。いろいろとアイデアや状況を叩かれて、飲めるところは飲むし、飲めないところはケンカをする。私はClipを作る過程においてスタッフとの対話でそれを学びましたが、そういう機会を持っている会社員は少ないですよね。Clipに来れば、プライベート・コンサルが緩衝材や橋渡しの役割を務めてくれるんです。

赤木 同じことは、ベンチャー企業と大企業の関係性でも言えます。ベンチャー企業と大企業は、文化もスピード感も意思決定フローも、ことごとく違うのが普通です。ベンチャー企業と大企業のコラボレーションは常に期待されていますが、文化の違いを乗り越えることは簡単ではありません。

広瀬 Clipの場合は事業面でもそれぞれを深く理解した上で相手をつなげますし、場合によっては平気で否定します。単に会議のファシリテーターがいるだけではないんです。

会員にとっては、驚きの体験ではないでしょうか?

光村 相談しに行って叱られることもありますからね(笑)。

広瀬 もちろん言葉は選びますけどね(笑)。Clipの場合は相談できるプライベート・コンサルが4人いますから、たとえば赤木さんに相談して叱られ、「やりづらいなぁ」と思ったら私のところに来ればいいんです。逆も然り。新しいことをやるのには“賛同”も“否定”も必要です。色んな人に相談出来る多様さはとても良いですよ。

光村 4人のプライベート・コンサルそれぞれ専門領域が異なりますので、事業のステージによっても使い分けることもできます。うまく活用してノウハウを得てほしいですね。

従来の「コワーキングスペース」のイメージとはまったく違いますよね。

光村 そうですね。先ほど申し上げたとおり、場所と同時にソフトを重視しています。たとえば、新規事業コンサルタントに依頼をした場合は数十万、数百万というコストがかかるかもしれませんが、アイデア検討の段階でいきなりそんな費用を出してくれる会社は少ない。でも、Clipなら月会費のみで新規事業の相談に乗ってくれる人を手に入れることができます。

赤木 場所だけではなく仕組みで稼ぐ、新しい不動産業のあり方かもしれないと、私たちは考えています。働く場所はそもそも、新しい価値を生み出すことを期待されている。さまざまなバックグランドを持つ人たちが出入りし、交流する中で価値を生み出す仕組みが、働く場所で当たり前に求められる時代になっています。Clipで学んだノウハウが、今後の働く場の商品企画につながっていくかもしれません。

広瀬 一方で「場を持っている」ことそのものも大事だとも思っています。一度のミーティングで上手くいかなかったとしても、継続して出入りし、重ねて顔を合わせていく内に「別の案件で相談してみよう」といった信頼感が生まれていくんです。そういった意味では、定期的に会える場やイベントが設計されているというのは強いと思いますね。

進み続け、変化し続ける

今後はどのような進化をお考えなのでしょう?

広瀬 「暗中模索のなかでも進み続ける」ということだけ、決めています。

光村 そう、進むことだけは絶対ですね。

ClipはPDCAの回し方やスピード感がすごいですよね。

光村 毎週開催しているイベントも、常に少しずつ変わり続けています。これは起業家やベンチャー企業の基本原理ですよね。「PDCAを高速で繰り返し、変化し続ける」という点はぶれないですね。
ベンチャーと大手企業が出会う場は増えてきていますが、ベンチャーとクリエイター、起業家とクリエイターといった組み合わせが出会う場は少ないですからね。さまざまな立場をつなげる仕組みをさらに広げていきたいと思います。

赤木 大手で新規事業を担当する人が、ここに通い続けることでベンチャーの言語を理解できるようになっていく。逆も然りで、ベンチャー側も大手の動き方や論理を理解できるようになる。そうした効果を発揮するための媒介であり続けたいと思いますね。

光村 そうした気付き、学びの広がりが続いていく場であり続けたいと思います。

取材日 2015年05月