STORY 2015.03.01 UPDATE

「東京に出る機会は、3分の1くらいになりました。僕らが営業する立場なのに、このオフィスを見たがって遊びに来てくれるんです。」

「31 VENTURES」参加企業の熱いストーリーを紹介する「MEET THE 31 VENTURES」。

第2回は、柏の葉オープンイノベーションラボ(以下、KOIL)に入居するFULLER(フラー)株式会社の代表取締役CEO 渋谷修太氏と、三井不動産 ベンチャー共創事業部 事業グループ長 松井健氏に、KOILでお話を伺います。モバイルアプリケーションの開発を手掛けるFULLERの事業は急速に展開。KOILの特徴を最大限に活用したFULLERのベンチャーストーリーとは?

  • 渋谷 修太

    FULLER株式会社 代表取締役CEO。1988年新潟県生まれ。長岡工業高等専門学校を卒業後、筑波大学へ入学。在学中からのグリー株式会社での勤務を経て、2011年にFULLERを設立し、代表取締役社長就任。2014年10月「柏の葉オープンイノベーションラボ」に入居。

  • 松井 健

    三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ長。1966年東京都生まれ。1990年三井不動産株式会社に入社。三井不動産投資顧問、不動産鑑定業務、住宅事業、アコモデーション事業、柏の葉キャンパスシティプロジェクトなどを歴任し、技術系ベンチャー企業を支援する国内最大級組織「TXアントレプレナーパートナーズ」に設立時(2009年)より参加、以降運営に関与。2015年4月から現職。

夢がなかった18歳の少年が、1冊の本と出会う。

御社は、スマートフォンのアプリを開発されるなど「技術者集団」としての側面もお持ちだと思いますが、はじめに、渋谷さんご自身の足跡を教えてください。

渋谷僕は中学卒業後、工業高等専門学校に進学して、そこで5年間プログラミングを学びました。その後、筑波大学に進学して、4年生の頃からGREEで働き始めました。3年生までに卒業に必要な単位は全部取得していたので、週4日は働いていました。GREEにはエンジニアとして入社されたのでしょうか?

GREEにはエンジニアとして入社されたのでしょうか?

渋谷「マーケティングや経営企画に関われる企業」を探していて、それでGREEを選びました。当時のGREEは、六本木ヒルズに入る前の、従業員がまだ80人くらいの小さな会社で「どんなことをやってもいい」と言ってもらえたんです。高専時代から、ずっとエンジニアでしたが、実は「仕事ではエンジニアをやらないぞ」って決めていました。

それはなぜ?

渋谷自分で会社を作りたかったからですね。

当時からベンチャーへの思いがあったのですね。何かきっかけがあったのですか?

渋谷話は少しさかのぼって18歳の頃ですが、将来の夢が特になくて。「夢を探そう」と思って、近所の本屋さんで1週間くらい色んな本を立ち読みしたんです。その時に見つけたのが、ライフネット生命の岩瀬さんが書いた『ハーバードMBA留学記』でした。「留学とかいいじゃん」と思ってその本を購入して読んでいると「会社って作れるんだ!」って思って。当時、「プログラマーになりたい」とか「デザイナーになりたい」という友達がいたので「みんなで働けるような場所を作りたい」と起業を考えるようになりました。
渋谷 修太 | FULLER株式会社 代表取締役CEO

シリコンバレーにも勝るコワーキングスペース。

そして、実際に起業の道を歩んだわけですね。

渋谷前職となるGREEで1年半ほど働いた後、2011年にFULLERを設立し、高専時代の同級生や大学の同級生とともに4人で始めました。

場所は東京ですか?

渋谷筑波大学のそばでアパートを借りました。家賃も安いですし、大学時代においしいお店があるのも知っていたので。でも、夜中でも職場に出入りするため、近隣から苦情が入って3ヶ月で引っ越しました(笑)。

次もつくばで?

渋谷メンバーも増えてきたのでつくばの一軒家を借りました。でも駅から車で15分の場所で、効率が悪いと感じるようになって、その後守谷駅から徒歩1分のオフィスに引っ越ししました。

それが前の職場ですか?

渋谷そうです。そこでも「もっと人数増やしたいよね」って話していて、「またオフィスを探さないと」って考え始めていたのです。

KOILを知ったきっかけを教えてください。

渋谷社員の一人が「こんなイベントがありますよ」ってKOILで開催されるイベントを見つけてきて、2014年の7月に遊びに来たんです。そこで松井さんと出会うのですが、松井さんのトークが面白くって(笑)。
松井お昼に一時間くらい一緒に食事をとったのですが、そこで様々な話をしました。私は、シリコンバレーや世界にはあって、日本にないスペースを作りたいと思っていたのです。渋谷さんもそんなスペースを探していたみたいで「じゃあ、是非KOILを使ってください」って。翌日か、翌々日くらいには、もう決定の連絡をいただきました。
渋谷松井さんがKOILだけでなくて、この柏の葉のまちづくりをずっと推進されてきて考えていることと、僕たちの目指しているところがすごく近いなと思って。僕もシリコンバレーモデルが好きで、都心ではなくて、郊外に広い敷地があって、みんなが暮らしやすく、ハッピーに働ける場所が理想としてあったのです。だからKOILはすごくいいなって、思いましたね。
松井最初に会ったその日から、どんどんリクエストもしてくれて。「卓球台があったほうがいい」とか(笑)。
渋谷シリコンバレーに僕もよく行くのですが、向こうのコワーキングスペースには卓球台が結構あるんですよ。でも、この「KOILパーク」の広さ、キレイさはシリコンバレーにも勝っていると思いますよ。
松井 健 | 三井不動産株式会社 ベンチャー共創事業部 事業グループ長

オフィスの魅力が、都内からも人を集める。

前のオフィスと比べて、広さはいかがですか?

渋谷実は、前の場所と床面積的には変わりません。でも専有スペース以外にもコワーキングスペースが使えたり、様々な設備が面白くて。

コワーキングスペース「KOILパーク」と専有スペースは、どのような使い分けをされていますか?

渋谷FULLERの社員の平均年齢は、僕の歳と同じ27歳くらいで、とてもうるさいんです(笑)。だから、プライベートな専有スペースでは、アットホームというかカジュアルな雰囲気でディスカッションをしていますね。今、社員が15人くらいいるのですが、その半分くらいはエンジニアです。すると一人で作業する時間が必要な人も多くいるのですが、そういう時には「KOILパーク」にある仕切られたスペースを使って集中して作業したりしています。お客さんが来た時にも、色んなところを紹介できて、普通のオフィスよりもおもしろいです。
松井FULLERのみなさんは、おそらく1番上手く、専有スペースとコワーキングスペースの使い分けをしていると思いますよ。
渋谷実は5月から一つ下のフロアに増床し、新しいオフィスに移ります。ベンチャーって事業の展開に合わせて、スタッフの数も短期間で変動することがよくあると思います。コワーキングスペースもそうですが、専有スペースもいくつかの大きさが用意されていて、その展開に合わせて利用ができる。かなり「クラウド的な発想」だな、と思います。

他に実際にKOILへ入居されて感じているメリットがあれば教えてください。

渋谷KOILのいいところは、お客さんや株主の方が、このオフィスを見たがって遊びに来てくれることですね。僕たちは営業しなければいけない立場なのですが、オフィスを面白がって来てくれるんです。
松井それはひとつの大きなメリットですよね。わざわざ都内まで出なければいけませんが、その時間がカットできる。
渋谷初回に来てくれる方がすごく多くて。特に僕たちの業界では、一度顔を合わせてしまえば、その後はSkypeなどを使って仕事を進められるので、都内にでる機会は3分の1くらいに減りましたね。

KOILにいれば世界各国のベンチャーコミュニティと自動的に繋がれる。

FULLERは海外の動向にも積極的だとおうかがいしましたが。

渋谷実際に見てしまうと止まらなくなってしまう性格で(笑)。「シリコンバレーを全員に見せなきゃまずい!」って思って、2014年の夏には「来週、シリコンバレーに行くぞー!」っていきなり実施したりしてるんです。今度は上海に2週間くらい行く予定です。

上海ですか? 何がきっかけだったのでしょうか?

渋谷去年、KOILで開催された「2014 China-Japan Hackathon」という日本と中国の2拠点によるWebサービスやアプリケーションを開発するハッカソンがあったのですが、そこで大人げなく優勝してしまいまして。その優勝商品が、上海でイベント共催した最先端のテクノロジー企業やアントレプレナーが集まるKnowledge and Innovation Community (KIC)への訪問ツアーでした。それで2014年の12月にKICへ訪問した際、KICにある上海のインキュベート施設InnoSpace(イノスペース)を訪ねて、また「あれをみんなに見せないまま死ねない」ってなって(笑)。KOILがInnoSpaceと連携しているので、今度全社で訪問する際には、無料で作業できるスペースを貸していただけるのです。

KOILとInnoSpaceの連携?

松井三井不動産が設立から深く関わっている、一般社団法人 TXアントレプレナーパートナーズ(以下、TEP)という、KOILを拠点に活動しているベンチャー企業を支援するための組織があるのですが、KOILとTEPが連携し、2014年11月より、海外のベンチャーコミュニティとのネットワークを築く「KOIL/TEPグローバルパートナープログラム」を推進しています。上海のInnoSpaceもそのパートナーのひとつで、頻繁に連絡を取り合っていますね。
渋谷もちろん東京にいることが重要なベンチャーもあると思いますが、僕たちは東京を目指さなくても、世界だけ見ていればいいんです。だから、こういったバックアップは非常にありがたいですね。

上海の他にも、パートナー拠点はあるのでしょうか?

松井アジアを中心に15の国と地域にパートナーがいます。2012年から、毎年「アジア・アントレプレナーシップ・アワード」というアジア12の国と地域から起業家が集まってプレゼンするイベントを柏の葉で開催しており、アジアのパートナーが必然的に多くなっています。
渋谷先ほどお話した、僕がKOILにはじめて遊びにきたきっかけとなったイベントです。
松井2015年で4回目となりますが、初回10数チームだった参加者が今回は30チームまで増えましたね。
渋谷世界中に知られるアジアのイベントになって欲しいですね。各国から著名人が集まって、「柏の葉といえば、5月にあのイベントあるよね」ってくらい一般にも浸透するくらいまで。実は今年は、TEPが推薦する日本代表の1社に選抜され、アントレプレナーとして参加することになりました。
松井ぜひFULLERの皆さんには日本発のグローバル企業を目指し頑張っていただきたいと思っています。シリコンバレーでインテルやヒューレット・パッカードが開催していたイベントも今年終了するそうです。やっぱり半導体などを扱う企業は景気の動向がダイレクトに影響するみたいで。そういう意味では、不動産業である私たちは、長期にわたって安定的にこのようなイベントも開催できますから、そこに三井不動産がベンチャーを支えていく意味があるんじゃないかと思っていますね。

新しいサービスを生み続けるベンチャーを、三井不動産のネットワークが支える。

FULLERはスマートフォン向けのアプリ開発などを行っているとのことですが、受託開発はされないのですか?

渋谷受託開発はスタートからやったことがないです。自社のサービス開発のみで、今は「App Ape」というサービスをメインにしています。

「App Ape」はどのようなサービスなのでしょうか?

渋谷アプリの利用動向調査サービスで、ちょうどテレビの視聴率調査のアプリ版のイメージですね。アプリを実際に利用している「アクティブユーザー数」がわかります。通常ですと、ダウンロードされているだいたいの数しかわからないのですが、デイリーやマンスリーで実際にどのくらい利用されているか、性別やどんな年代の人に利用されているのかもわかります。「Gunosy」の利用者は10代・20代が多いけど、「SmartNews」は30代・40代の利用者が多い、とか。

このデータはどのように集めているのですか?

渋谷端末管理アプリを開発してリリースしているのですが、そのアプリの中で「他のアプリの利用状況を取得し、個人が特定されない形にしたデータを収集して、第三者提供しますよ」ということに同意してもらっています。

データの母数はどのくらいで、どのような事業者がこのデータを利用しているのでしょうか?

渋谷端末管理アプリのダウンロード数が10万くらいなので、マックスはその数になりますが、アクティブに利用されている数は平均して5万くらいですね。今年の夏頃には、このサンプル数を10倍にしたいと思っています。利用者は、アプリ開発者だとDeNAさんやコロプラさん、通信事業者ですとDoCoMoさんとソフトバンクさん、広告代理店ですと電通さんなどにご利用いただいています。

ユーザー数はどのくらいですか?

渋谷無料のユーザーが3000社くらいですね。基本料金は無料のフリーミアムのモデルをとっているのですが、有料で利用してくださっている企業が30社ほどです。

FULLERの今後の展望をお聞かせください。

渋谷まず、「App Ape」の有料顧客を現在の3倍、100社まで増やしたいと思っています。そして、韓国、台湾、上海、アメリカにもこのサービスを展開していきたいですね。そして、それが実現できる人材を増やしていきたい。
松井今年開催予定の第4回「アジア・アントレプレナーシップ・アワード」に、12ヶ国のグローバルパートナーが集結しますから、一気に挨拶できますよ。
渋谷すごくいいですね。

では、まずは国内・海外ともに既存の事業を拡大させて?

渋谷でも、それだけじゃちょっと面白くない。数字の伸びも関数で言えば、直線的なものになるので。だから、既存事業をベースとしつつも、革新的な「モノ作り」を仕込んでいったりとか。

モノ作りですか?

渋谷例えば、これはFULLERで作った木製のパスケースなんですが、木製にもかかわらずカーブする構造になっていて、ネジやボンドは必要ありません。

既存の事業とこういったモノ作りは、ある種対極に位置するようなものだと感じるのですが。

渋谷僕たちは高専出身なので、入口がロボット工学なんかのハードウェアなのでそこに違和感は全然ないんです。現在の事業を既存の柱のひとつだとは思っていますが、「連続的に新しいサービスを社会に生み出していく」っていうのが僕たちのやりたいことです。だから、「モノ」も本気で仕込んでいますよ。

そういう意味では、3Dプリンターや、レーザーカッターを備えた「KOILファクトリー」は魅力的ですよね。

渋谷そうですね、スタッフによってはかなりの頻度で使用しています。僕も自分の家の下駄箱を作ったりしましたね(笑)。

最後に、三井不動産がベンチャー企業支援をどう考えているのか教えてください。

松井スタートアップの立場にたった、使いやすい環境を提供していきたいと思っています。例えばKOILの魅力は、KOILファクトリーなどの設備だけでなく、あらゆる場所に会話やネットワーキングが出来る仕掛けを置いていることなんです。入ってすぐの一番いいスペースに、カフェが広がっているオフィスビルひとつとっても感じていただけると思います。
渋谷そんなところは無いですね。
松井もちろん、ひとつの施設に限った話ではなくて、三井不動産が持っているネットワークですとか、街づくりそのものも、スタートアップの方が使いやすいように進めていきたいです。柏の葉であれば、KOILのコワーキングスペースが利用できて、でも個室が欲しいという人には専有スペースがあって。その専有スペースも規模に合わせて増床できて。やがては土地も提供できますから、FULLERの本社ビルを建てていただいて、街で応援するっていうのが私の夢ですね(笑)。
渋谷近々やりましょう(笑)。
取材日 2015年03月